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比企能員~2代将軍・頼家の後見人はなぜ北条氏に誘殺されたのか?~

『鎌倉殿の13人』主要人物列伝 第17回


源頼家の外戚で13人のメンバーの1人でもあった比企能員(ひきよしかず)。北条時政、義時親子が2代将軍・頼家の力を弱体化させる過程で対立し、政敵として暗殺された。能員を襲った過酷な運命とは?


2代目将軍・頼家をささえる比企能員の台頭に脅威を感じた北条時政は、謀略によって能員とその勢力を、根こそぎ排除する。この事件は「比企能員の乱」と呼ばれた。
イラスト/宇野市之丞

 比企氏は、武蔵国比企郡に本領を持つ在地豪族であるが、その系図はあまり詳細ではない。比企能員についても生年・死亡年齢が不明なために、実年齢も分かっていない。いくつかの事実から推測すれば、ほぼ頼朝と同年齢ほどと思われる。

 

 清和源氏の嫡流・源義家は、頼朝から数えて5代先祖に当たる。この義家から累代の源家は関東地方に家臣団を持っていた。

 

 比企氏もそうした源家にゆかりの関東武士団の1つであったが、義朝に従って京都に上っていた。そうした関係から久安3年(1147)に生まれた義朝の三男・頼朝の乳母(めのと。生母に代わって幼児を育てる女性)の1人に比企掃部允(かもんのじょう)の妻(後に比企尼/ひきのあま)も選ばれた。能員は、この女性の甥に当たり、後に養子となっている。

 

 比企尼夫妻には3人の娘がいた。長女は始め二条天皇に仕え丹後の内侍と号して並びなき歌人であったというが、ある武士と密通して島津忠久(鹿児島・島津家の先祖)を生んだ後、後に関東に下って安達藤九郎盛長に嫁し、源範頼の妻になる娘などを生んでいる。

 

 二女は河越太郎重頼(しげより)の妻になり、これも源義経の妻になる娘などを生んだ。三女は伊藤祐清の妻となったが、その没後に平賀義信(源義栄の弟・義光の三男・盛義の子孫)に嫁して朝雅を生んだ。

 

 武蔵国に戻った比企尼は、伊豆に流罪となった頼朝になにくれとなく温かい手を差し伸べるなど面倒を見続けた。頼朝は後に、彼女を鎌倉に呼び寄せて住まわせた。人々はその地を比企谷と呼び、屋敷を比企谷殿と呼んだ。尼は、甥の能員を養子として頼朝に推挙した。能員が頼朝の側近となった背景は、こうしたことにあった。

 

 寿永元年(11828月、御台所・政子が長男・頼家を出産した。産所は比企谷殿であり、比企尼の娘(誰かは不明)が乳母となった。頼朝にとっては、自分と長男の2人の乳母が比企氏から出たことになる。能員は、こうして「源家の乳母」の一族という立場もあって、幕府に確固たる地位を占めていった。しかし、能員は鎌倉御家人としても頼朝軍の先頭に立ち、平家討伐・奥州藤原氏討伐などにも大将の1人として参戦している。

 

 正治元年(1199)正月、頼朝が不慮の死を遂げ、頼家が将軍位に就いた。この時点で能員は頼家の舅(しゅうと)になっている。この2年前に娘・若狭局(わかさのつぼね)が頼家の正室になり、嫡男・一幡(いちまん)を生んでいたからである。この時期には「13人の合議制」が決定し、能員もその1人であった。しかし、これは北条氏(時政・義時)が幕府の実権を握るための一石であり、この後、頼家と合議制の面々との確執が表面化する。この年、梶原景時追討事件が起きた。

 

 建仁3年(12037月、急病になった頼家が重篤になると、北条氏は源家の地頭職などを弟・実朝と嫡子・一幡に分与することを決めた。これに対して能員は快方に向かった頼家と相談して、北条討伐を密議した。この密議が時政・義時の知るところとなった。能員は時政の自宅に誘引(ゆういん)されて殺され、残る一族も闘争の間に皆殺しにされた。一幡も殺された。時政は、実朝を3代将軍の座に付けて、自らはその(初代)執権となった。この事件は、北条氏の鎌倉幕府での地位を安定させたのであった。 

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江宮 隆之えみや たかゆき

1948年生まれ、山梨県出身。中央大学法学部卒業後、山梨日日新聞入社。編制局長・論説委員長などを経て歴史作家として活躍。1989年『経清記』(新人物往来社)で第13回歴史文学賞、1995年『白磁の人』(河出書房新社)で第8回中村星湖文学賞を受賞。著書には『7人の主君を渡り歩いた男藤堂高虎という生き方』(KADOKAWA)、『昭和まで生きた「最後のお殿様」浅野長勲』(パンダ・パブリッシング)など多数ある。

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