中世武士の地域支配の真実に迫る『中世武士団 ― 地域に生きた武家の領主 ―』展
編集部注目の歴史イベント
国立歴史民俗博物館は2022年3月15日(火)~5月8日(日)の期間、企画展示「中世武士団―地域に生きた武家の領主―」を開催する。中世武士は、世襲制の職業戦士であるとともに、地域の支配者(領主)としても存在した。中世武士の地域支配は、武士個人の力量によって実現したわけではなく、主に一族と家人によって構成された武士団という集団(組織)を形成することで実現した。そのため本企画展示では、武士団を戦闘集団ではなく「領主組織」という観点から捉え、中世武士が武士団という領主組織を形成して遂行した地域支配の実態と展開について、13世紀~15世紀を中心に、中世の文献・考古・美術資料のほか、近世~近代の絵図・土地台帳や現地調査に立脚して復元した本拠景観にもとづき、その具体相を展示している。事例には、豊かな資料を今日に伝える、石見益田氏・肥前千葉氏・越後和田氏を主に取り上げている。また、本企画展示は、文献史学・考古学・美術史学・民俗学・歴史地理学による《地域総合調査》の成果を展示するものである。
第1章 戦う武士団 ― プロローグ
「中世武士団」と聞くと、一般的には戦士集団としての姿が想起されるだろう。本章では、絵巻や武具・武器から武士団の圧倒的な武力=優れた弓馬技術の保持者としての姿と、無抵抗な女性や幼児にも襲いかかった残忍な戦士としての姿を展示している。

紙本著色蒙古襲来絵詞(複製)下巻(部分) 13世紀末 国立歴史民俗博物館蔵 原品:三の丸尚蔵館蔵
第2章 列島を翔る武士団 ― 移動と都市生活
鎌倉時代の武士団は一国規模ないしは全国規模におよぶ散在所領を形成し、京・鎌倉といった都市にも屋敷(宿所)を構え、列島中を広域的に移動した。そうした武士団の姿を、主に文献資料にもとづいて展示される。
中世の武士は、草深い田舎にある先祖から代々受け継いできた「一か所」の所領(領地)を命懸けで守り、それを生活の頼みとして生きたという「一所懸命」のイメージでしばしば語られる。しかし、本章ではそうした中世武士のイメージを相対化している。

新刊吾妻鏡 慶長10年(1605) 東京大学史料編纂所蔵
第3章 武士団の支配拠点 ― 地域のなかの本拠
中世武士団は複数の所領を形成したものの、中核となる所領を本領=苗字の地とし、そこに屋敷を中心とする本拠を形成して所領支配の拠点とした。本章では、屋敷・交通路・集散地・用水路・寺社など、さまざまな要素が関連づけられて構成された本拠の景観を復元することで、鎌倉時代を中心にその具体的な様相を展示している。また、屋敷で営まれた当時の武士たちの生活の様子や、武士の家における女性の役割についてもふれられている。

絹本著色一遍聖絵(複製)第一巻(部分) 正安1年(1299) 国立歴史民俗博物館蔵 原品:清浄光寺(遊行寺)蔵 *展示期間前期(3月15日~4月10日)
第4章 武士団の港湾支配 ― 地域の内と外をつなぐもの
武士団は領主として交通や物流を支配していて、沿海地域の場合は、いかに港湾を支配するかが重要であった。石見益田の事例を中心として、港湾の景観、船舶の航路、そして武士団による支配の様相に迫っている。
当時、日本列島で使用された船の多くは貨物船であった。緩やかな速度で移動し、夜間は港湾で停泊するのが特徴だ。そうした貨物船の移動を支えるインフラとして、大小無数の港湾と港町が生まれた。また、大型外洋船の往来によって、列島各地は世界とも結びついていた。

海東諸国紀(複製) 朝鮮・成化7年(1471) 国立歴史民俗博物館蔵 原品:東京大学史料編纂所蔵
第5章 霊場を興隆する武士団―治者意識の目覚め
職業戦士集団であることを本質とする武士団自体は、地域社会を支配(統合)する論理(正当性)を持てなかった。そのため、地域社会の救済を実践する宗教者集団と提携し、その活動と拠点となる寺社=霊場を整備・保護することで、地域社会支配の論理を獲得しようとした。
また、宗教者集団との接触は、武士団に統治者としてのあるべき姿勢について自覚させる契機にもなった。すなわち武士団は、宗教者集団から民衆を憐れむことを心がける「撫民(ぶみん)」の思想を学び、殺生と無縁ではいられない現実との狭間で苦悩しながらも、その体得を目指したのだ。ここに武士団は、圧倒的な武力を振るう残忍な戦士集団からの脱却の一歩を踏み出したが、本章ではそうした武士団の姿を展示している。

佐賀県重要文化財 木造多聞天立像・木造持国天立像 永仁2年(1294) 円通寺蔵(画像提供:熊本県立美術館)
第6章 変容する武士団―エピローグ
南北朝内乱の勃発を契機とした戦乱の増加により、武士団の本拠には要塞化した屋敷や山城が築かれ、軍事的な要素が新たに加わった。また、戦乱の増加は、武士団の本拠が形成された地域社会で暮らす村落住人や寺社も戦争に巻き込んだため、彼らは武士団に安全保障を求めるようになった。戦乱の増加は圧倒的な武力を持つ武士団の存在感を増し、武士団の本拠が形成された地域社会は武士団を中心にまとまるようになった。
室町時代になると、室町将軍の支援を得て所領保全を図ろうとする武士団が多く現れた。そうした武士団は、京都と同様の儀礼・遊芸を本拠で催すことで、地域社会に対して自らが将軍と直結していること、さらには文化的な優越性を誇示し、自らを権威づけて地域社会に対する求心力の維持を図った。本章では、このように本格的に地域社会に定着し、最先端の文化を導入して自らの権威を演出した武士団の姿を展示されている。

重要文化財 益田兼尭像(雪舟筆) 文明11年(1479)益田市立雪舟の郷記念館蔵 *展示期間前期(3月15日~4月10日)
【開催概要】
<展覧会名>「中世武士団―地域に生きた武家の領主―」
<開催期間> 2022年3月15日(火)~5月8日(日)
<開館時間>9時30分~17時00分(入館は16時30分まで)
<休館日>毎週月曜日(休日にあたる場合は開館し、翌日休館)、ただし5月2日(月)は開館
<会場>国立歴史民俗博物館
〒285-8502 千葉県佐倉市城内町 117
<観覧料>
一般:1000円 / 大学生:500円
※総合展示もあわせてご覧になれます。
※高校生以下は入館料無料です。
※高校生及び大学生の方は、学生証等を提示してください。(専門学校生など高校生及び大学生に相当する生徒、学生も同様です)
※障がい者手帳等保持者は手帳提示により、介助者と共に入館が無料です。
※半券の提示で当日に限りくらしの植物苑にご入場できます。<事前予約について>
混雑緩和のため、土・日・祝日、会期末(5/2~5/8)はすべてのお客様につきまして、オンラインによる入場日時の指定(事前予約)が必要です。詳細は公式サイトに掲載しますので、ご確認ください。
主 催 大学共同利用機関法人人間文化研究機構 国立歴史民俗博物館
共 催 島根県益田市、佐賀県小城市、新潟県胎内市、千葉県千葉市
展覧会公式サイト
https://www.rekihaku.ac.jp/outline/press/p220315/index.html