節分に「鬼は内」? 人々に恵みをもたらす鬼たちとは
鬼滅の戦史63
節分の豆まきの時の口上といえば、いうまでもなく「鬼は~外」である。しかし、なぜか「鬼は~内」と言って、鬼を招き入れてしまう地域も存在する。その理由とはいったい?
「鬼は〜外」ではなく「鬼は〜内」
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青森県五所川原の立ちねぶた/フォトライブラリー
「鬼は〜内!福は〜内!」
毎年2月3日となれば、煎った大豆を家中にばらまいて、季節の始まりである立春(2月4日)の前日に家内安全を祈るというのが、日本人の風物詩のひとつとなったようである。
しかし、冒頭の口上はちょっと何かが変だ。そう、一般的には「鬼は〜外」というのが普通であるにも関わらず、「鬼」まで「内」にしてしまっているからである。意外に思われるかもしれないが、この口上、決して珍しいことではない。理由は言わずもがな、鬼が必ずしも悪者ではないから。鬼といえども、人を食い殺すような恐ろしい者ばかりではないのだ。
例えば、奈良県天川村の天河神社で言うところの鬼とは、役行者に仕えた前鬼と後鬼のこと。その子孫と伝えられる社家の家では、先祖である「鬼」を神さまとしてお迎えしている。
また、群馬県藤岡市鬼石地区では、弘法大師が鬼を成敗して追い出して以降、鬼を敵対視しなくなったようで、むしろ冒頭の口上のように、全国各地から追い出された鬼を呼び込む「鬼恋節分祭」が催されるのだとか。
さらに東京都台東区の仏立山真源寺においては、仏教に帰依して子供の守り神となった鬼子母神を祭神としているため、鬼を追い出すような呼びかけはしない。代わりに「悪魔外」と言うらしい。その他、埼玉県比企郡嵐山町の鬼鎮神社や、奈良県奈良市の元興寺、新宿区歌舞伎町の稲荷鬼王神社等々、数え上げればキリがないほど「鬼」を大事に扱うところが多いのだ。
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大峯山龍泉寺(奈良県吉野・天川村)の前鬼/フォトライブラリー
漢字にツノが無い優しい鬼がいる青森県弘前市鬼沢地区
中でも、鬼をまるでアイドルかのごとく慕うかのような様相を見せているのが、青森県弘前市鬼沢地区である。ここで親しまれている「鬼コ」がそれ。津軽半島の南、津軽富士とも称される岩木山(標高1625m)の東麓に位置する鬼神社周辺が、その舞台である。
ちなみに、この神社、鳥居や拝殿に掲げられた「鬼」の字にツノ(ノの字)が無い。恐ろしさの象徴とも言うべき「ツノ」が無いわけだから、ここで言うところの「鬼」とは、心優しい鬼なのだ。
何でもその昔、岩木山の赤倉の地において、弥十郎という農民が、鬼と親しくなって相撲をしたりして遊んでいたという。ある時、弥十郎が鬼に、「水田に水を引いたものの、すぐに水が枯れてしまうので困っている」とグチをこぼしたことがあった。これを聞いた鬼が、早速、赤倉沢上流から堰を作って水を引いてくれたのだとか。ただし、「自分のことを誰にも言わないように」との約束を交わしていたものの、その約束を知らない弥十郎の妻が、鬼が堰を作る様子を見たと言いふらしてしまったのだ。約束を破られた鬼は、鍬や蓑笠などを置いて立ち去ってしまったとか。その鍬などを祀ったのが、前述の鬼神社という訳である。となればここでは、鬼とは農民たちに恵みをもたらした大恩人ということになるわけで、「鬼は〜外」などと、罰当たりなことを言うわけにはいかないのである。
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青森県弘前市鬼沢地区にある鬼神社/フォトライブラリー
アイドルと化したキュートな「鬼コ」
ユニークなのが、この辺り一帯に、「鬼コ」と親しみを込めて呼ばれる鬼の像が多いことである。鬼神社のある弘前市だけでなく、隣接するつがる市や平川市、鶴田町の他、五所川原市などの神社の鳥居などで見つけることができる。多くが、両肩で鳥居を支えるかのように踏ん張っているのが特徴的で、怖い形相で睨みつけて、災が集落に入り込まないように睨みを利かせている。
赤い鬼や青い鬼、黒い鬼の他、山伏風、力士風などの鬼がいたりと多種多彩で、しかも実にカラフル。そのいずれもが、不思議なほど愛嬌があって、微笑ましいのだ。褌やパンツ姿でしゃがみ込む様相は、むしろ「キュート」というべきかもしれない。
面白いことにこの辺りでは、「鬼コカード」や「鬼の塗り絵」といった「鬼コ」にまつわるキャラクターグッズまで販売されているとか。もはやここまでくれば、「鬼」とはまさに、アイドル顔負けの存在というべきなのだ。