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華麗なる一族GUCCIの崩壊を社会情勢の中で描いた映画『ハウス・オブ・グッチ』

歴史を楽しむ「映画の時間」第26回 


現代のファッションブランドの元祖といわれる「GUCCI(グッチ)」。1970年代から日本がバブルに湧いた80年代、そして90年代の社会情勢の中で<創業者グッチ一族>は崩壊していく。一族の野心・欲望・裏切りはやがては殺人事件へと発展していった……。名ブランド衰退の真相を家族崩壊の実話に基づいた映画から追う。


70年代から90年代という時代の中で華麗なる一族GUCCIはなぜ崩壊したのか

c)2021 METRO-GOLDWYN-MAYER PICTURES INC.ALL RIGHTS RESERVED.

 『ハウス・オブ・グッチ』はイタリアで1921年に創業され、世界的なファッションブランドへと成長した「GUCCI」(グッチ)の、創業者一族の愛憎をリドリー・スコット監督が描いた作品。実話をベースに1978年から90年代までの一族の物語が映し出されていく。

 

 物語の中心になるのは創業者の孫マウリツィオ・グッチ(アダム・ドライバー)と、彼と結婚するパトリツィア・レッジャーニ(レディー・ガガ)との夫婦関係。

グッチ一族の財産目当てか? それとも愛するゆえだったのか?

 

c)2021 METRO-GOLDWYN-MAYER PICTURES INC.ALL RIGHTS RESERVED.

 最初は弁護士を目指していた堅物のマウリツィオは、情熱的なパトリツィアに魅せられ、結婚してからは彼女の助言を取り入れて、一族の事業を掌握しようとする。マウリツィオは、彼に好意的だった伯父のアルド(アル・パチーノ)や、無能な従兄弟のパオロ(ジャレッド・レト)から持ち株を奪ってトップに立つが、彼のやり方に口出しするパトリツィアを疎ましく思い始め、夫婦の仲が亀裂。やがて、決定的な参事へと発展していく。

 

 パトリツィアは元々、父親が経営する運送会社の経理をしていて、グッチ家の壁にかかっている名画の作者もわからない、上流階級とは無縁な女性。その彼女をマウリツィオの父親ロドルフォ(ジェレミー・アイアンズ)は、財産目当てに息子に接近してきたと怪しむ。

 

 今ではこの見方が事実としては一般的だが、映画の中の彼女はグッチ一族の財産に惹かれているが、マウリツィオのことも愛し続けているという描き方になっていて、単純な悪女にはしていない。そのパトリツィアが持つ激しい愛の熱情を、レディー・ガガが全身で表現している。

 

グッチブランドの格式よりも市場拡大に乗り出した80年代の社会情勢

c)2021 METRO-GOLDWYN-MAYER PICTURES INC.ALL RIGHTS RESERVED.

 またアルド役のアル・パチーノが好助演。グッチのブランドとしての格式や誇りを二の次にして、格安の商品を大量に販売し、市場を拡大しようとする俗物的な男を、絶妙のさじ加減で演じている。

 

 80年代初頭のニューヨークにあるグッチの支店で、彼が『コンニチワ』と日本語を言いながら、ブランド品を買いあさる日本人観光客を迎える場面は、いささか複雑な気持ちになるが、実際にこの当時、世界のブランド品の最高の顧客はバブル経済へと突き進む、日本人だったのである。

 

 他にもグッチと社会情勢との関連が描かれる。マウリツィオはアルドやパオロの持ち株を奪い、傾きかけたブランドの経営を立て直すために、アラブ資本と手を組む。

 

 この時期のアラブ諸国に目を移せば、71年にアラブ首長国連邦が成立して、その貿易・商業の中心地ドバイに経済特区の「ジュベル・アリ・フリーゾーン」が設定されたのが81年。ここからドバイは飛躍的な発展を遂げていくのだが、例えば89年にソニーがアメリカのコロンビア映画を買収して日米貿易摩擦が問題になったように、80年代からのジャパンマネーとアラブ資本の世界進出が、「GUCCI」など世界的なブランドの衰退にも影響している。

 

 そんな時代背景を踏まえながら観ると、この作品は更に面白い。

 

社会の流れに翻弄され崩壊していく家族の物語

c)2021 METRO-GOLDWYN-MAYER PICTURES INC.ALL RIGHTS RESERVED.

 

 基本的は一つの家族が、社会の流れに翻弄されながら崩壊していく姿を描いているのだが、その味わいはアル・パチーノが主演した『ゴッドファーザー』シリーズ(72~90)を思わせる。あのシリーズの第2作では、キューバに進出して事業を拡大しようとした主人公のマイケルが、59年のキューバ革命成功によって、窮地に立たされる姿が描かれた。

 

 あちらはマフィア組織の話だが、ある組織が巨大化していくことと社会とのかかわり。それによって断絶していく家族とのつながりという部分には、相通じるものがある。その骨太の語り口を含めて、最近の『最後の決闘裁判』(21)も好調だったリドリー・スコット監督は、また新たな代表作を生み出した。

 

【映画情報】

1月14日(金)より全国公開

『ハウス・オブ・グッチ』

監督・製作/リドリー・スコット

出演/レディー・ガガ、アダム・ドライバー、アル・パチーノ、ジャレッド・レト、ジェレミー・アイアンズ、サルマ・ハエックほか

時間/159分 製作年/2021年 製作国/アメリカ

 

公式サイト

https://house-of-gucci.jp/

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過去記事

金澤 誠かなざわ まこと

1961年生まれ。映画ライター。『キネマ旬報』などに執筆。これまで取材した映画人は、黒澤明や高倉健など8000人を超える。主な著書に『誰かが行かねば、道はできない』(木村大作と共著)、『映画道楽』、『新・映画道楽~ちょい町エレジー』(鈴木敏夫と共著)などがある。現在『キネマ旬報』誌上で、録音技師・紅谷愃一の映画人生をたどる『神の耳を持つ男』を連載中。

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