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【江戸の性語辞典】現代でもおなじみの言葉「お開帳(おかいちょう)」は江戸時代からあった

江戸時代の性語③


 戦国時代に使われていた言葉は江戸時代では変化し違った表現になることがある。それは江戸時代と現代を比較しても同様。「言葉」は時代とともに常に変化するもの──。
 性に関する言葉もしかり。江戸時代の性に関する言葉は、現代まで使われているもの、意味が変化したもの、まったく使われなくなったものがあるようだ。本稿では「江戸時代の性語」について、現代語に照らし合わせ解説。江戸の言葉を歴史とともに紐解こう。


 

■お開帳(おかいちょう)

 開帳とは本来、寺院で特定の日に厨子(ずし)の中の秘仏を公開して、人々に拝ませることである。

 

 とくに、本尊などの仏像を他の寺院に貸し出し、公開することを出開帳(でがいちょう)といった。江戸時代、出開帳は多くの人々が詰めかけ、一大イベントだった。

 

 ところが、いつしか「お開帳」は女が股を広げ、陰部を露出する意味になった。転じて、「お開帳」は女性器を意味することもあった。

 

図 開帳と参詣者『嗟鳴御開帳』(若松万歳門著、天明4年)、国会図書館蔵

 

【用例】

①戯作『浮世風呂』(式亭三馬著、文化十年)

 下女が連れ立って湯屋に来た。ひとりが石榴口(ざくろぐち)から出たところで、濡れた床ですべって、仰向けに転んだ。

 

 連れの下女がてんでに言う。

 

 女一「おお、危ねえ。やれやれ、痛かったろう」

 女二「おっと、危なし。お開帳、なんまみだぶつ」

 

 この「お開帳」は、陰部を意味している。

 

 転んだ拍子に股をひらき、「お開帳」が見えてしまった。それを、秘仏の開帳に擬して、南無阿弥陀仏と唱えたのである。

 

 下品だが、なんとも愉快な場面といえよう。

 

②戯作『娘消息』(三文舎自楽著、天保十年)

 かつて恋仲だったが、事情があってしばらく会えなかった男女の、再会の場である。

 

 男はさっそく、女の体を求める。

 

 女「おや、ご用とはえ」

 男「ご用ざんす、拝みんす。本尊さまのお開帳よ」

 女「おや、いやだねえ」

 男「いやでも、帯は解くだろう」

 女「どうでも、好きになりますよ」

 

「本尊さまのお開帳」は、体を許すこと。露骨には、股をひらいて陰部を露出する意味となろう。

 

 

③歌舞伎『三人吉三廓初買』(河竹黙阿弥作、安政七年初演)

 場所は吉原。

 

 遊女初瀬路にからかわれた遊女花巻が怒り、立ち上がる。ところが、花巻は初瀬路に転ばされ、股をひらくかっこうになった。それを、遊女見習いの少女である禿(かむろ)が冷やかす、という場面。

 

 花「わたしゃ、もう、聞くこっちゃないよ」

  ト、花巻、立ちかかるを、初瀬路、突く。これにて、仰向けに後ろにひっくりかえる。禿、これを見て、

 禿一「それ、お開帳だ」

 禿二「南無妙法蓮華経」

  ト、花巻の前を拝む。

 

「前」とは、陰部のこと。花巻の広げた股の奥の「お開帳」に向かって、禿は開帳の秘仏に対するように、拝んだのである。

 

 吉原だけに、少女の禿もませていた。

 

 本来の開帳の意味と、お開帳の意味を掛けた、軽妙で猥褻な場面と言えよう。

 

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過去記事

永井 義男ながい よしお

1997年『算学奇人伝』で開高健賞受賞。時代小説のほか、江戸文化に関する評論も数多い。著書に『江戸の糞尿学』(作品社)、図説吉原事典(朝日新聞出版)、江戸の性語辞典(朝日新聞出版)など。

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