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戦国体育会系が文化系武将に飲み込まれた!〜戦バカたちの失敗とは!?〜

桂紗綾の歴史・寄席あつめ 第6回


『歴史人』ファンの皆様、私、大阪の朝日放送アナウンサー・桂紗綾と申します。このコラムでは、落語を中心に“伝統芸能と歴史”について綴って参ります。どうぞよろしくお願い致します(第1回コラムはこちら)。普段、アナウンサーとして働いている私ですが、もう一つの肩書が社会人落語家です。30歳を過ぎた頃からのめり込み、気付けば自分でも高座に上がるようになりました。落語は戦国時代から続く(諸説あり)話芸であり、民衆にも親しまれ、時代を反映した大衆芸能です。その他の伝統芸能(講談や浪曲・文楽・歌舞伎等)にも影響を受け、もちろん歴史とは切っても切れない関係なのです。


 

「講釈師見てきたような嘘をつき」という川柳があります。講釈師・講談師は、まるで自分が見てきたような口ぶりで軍記物語などを読む、ということです。神田伯山先生人気で講談が改めて注目されています。

 

 講釈=講談という芸は、釈台(しゃくだい)と呼ばれる文机(ふづくえ)の前に座り、張扇(はりおうぎ)でポンポンとリズムを取りながら軍書などを読むというもの。今は違いますが、昔は実際に本を読み聞かせていたので、講談は〝読む〟と表現します。

 

 ネタは、合戦話の軍談、将軍家や大名家に伝わる記録を読む御記録物、市民の事件を描いた世話物などに分類されます。例えば軍談は『太平記』『源平盛衰記』『川中島戦記』『信長記』『太閤記』、歴史好きには垂涎ものばかり。

 

 また、成り立ちは古く、最初の講談師は『古事記』編纂者の一人・稗田阿礼(ひえだのあれ)だと言われています。戦国時代には武士が大名の前で『太平記』を読み聞かせ、江戸時代初期には戦で負傷し失業した武士が生活の糧を得るため道端で軍談を講じました。やがて元禄時代、講釈専門の小屋・講釈場が出来る程庶民の間で流行します。

 

 講談の魅力は、調子よく朗誦することと物語をドラマチックに演出すること。ここから先述の川柳が生まれたのですが、本来は「講釈師見てきた上で嘘をつき」だったようです。現場や史伝を学び確認しているからこそ、真実味のある嘘が放たれるのですね。

 

熊本城にある加藤清正像/photolibrary

 

 さて、そんな嘘か真か定かでない講談には、武士の笑える〝失敗談〟もあります。

 

 上方講談で人気の、大阪冬の陣・夏の陣を描いた長編『難波戦記』から『荒大名の茶の湯』…時は慶長四年(1959)、秀吉を亡くした豊臣方には幼い秀頼公を守り立てるため荒大名七人衆が集結します。加藤清正、福島正則、池田輝政、浅野幸長、黒田長政、加藤嘉明、細川忠興。彼らを敵に回しては勝ち目がないと焦った徳川家康は、軍師・本多正信に相談。早速本多は屋敷に茶室を造り、彼らを招待します。

 

 当時茶の湯は政治の道具に活用されていましたが、この内お茶の心得があるのは千利休に師事していた細川のみ。他の六人は細川の作法を真似るのですが、もう滅茶苦茶。お茶だけに!加藤清正は身長がなんと2m13cm、顔の長さは45cm、あご髭の長さも45cmと、驚くような大男。茶室には火灯口と呼ばれる狭い入口を通ります。細川は身を屈めて上手く入りますが、続いた大男清正は肩が入口にぶつかってしまう。それを見ていた池田は肩を当てて入るものだと勘違いし、故意にドーン!とぶつける。朝野もドーン!黒田もドーン!最後には横紙破りな福島がド~ンバリバリ!とうとう火灯口を潰してしまいます。お茶を出されてもしくじり放題。清正はびちょっとお茶に浸してしまった長い髭を、茶碗に搾ります。これを回された池田は生まれて初めて飲むお抹茶(清正の髭汁混じり)が苦くて不味くてたまらず茶碗の中に吐き出した。「こんなものが飲めるか」と皆飲まずに隣に回します。さすが豪傑福島はこれを思い切り飲み干しますが、細川に「茶碗をこちらに回せ」と言われ、ぶんっと放り投げる始末。あまりのおかしさに本多も吹き出します。

 

 この後家康も加わって賑やかに酒宴の席となり、七人と打ち解けるというお話。実は茶会は単なる口実で、七人を抱き込むための家康の調略だったのです。まるで政治家の派閥争いみたいな噺ですよね()

 

駿府城跡にある徳川家康像/photolibrary

 

 彼らが小姓時代の逸話だという説もありますが、そこは講談、嘘か真かあやふやなところが面白い芸ですから「そんなやつおらへんやろ~」と思えるように『荒〝大名〟の茶の湯』と題されているようです。

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桂 紗綾()
桂 紗綾

ABCアナウンサー。2008年入社。女子アナという枠に納まりきらない言動や笑いのためならどんな事にでも挑む姿勢が幅広い年齢層の支持を得ている。演芸番組をきっかけに落語に傾倒。高座にも上がり、第十回社会人落語日本一決定戦で市長賞受賞。『朝も早よから桂紗綾です』(毎週金曜4:506:30)に出演。和歌山県みなべ町出身、ふるさと大使を務める。

 

『朝も早よから桂紗綾です』 https://www.abc1008.com/asamo/
※毎月第2金曜日は、番組内コーナー「朝も早よから歴史人」に歴史人編集長が出演中。

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