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腐敗為政者を懲らしめる! ″国定忠治″喝采を浴びる

江戸の世を沸かせた侠客の武勇譚と共助力・第6回

拡散された忠治人気の背景

長脇差での活躍が描かれた国定忠治 『上州織侠客大縞』/都立中央図書館蔵

 沢田正三郎は残念ながら昭知4年(1929)に急死し、劇団はピンチに陥ったが島田正吾、辰巳柳太郎が登場し、再建に成功した。

 

 一方、沢田正二郎主演の『国定忠治』によって剣劇ブームが起きた。

 

 これは刀で斬り合う場面を見せ場にした芝居で、「ちゃんばら劇」ともいった。のちに芝居だけでなく、このたぐいの映画も「ちゃんばら映画」と称した。

 

 ところで国定忠治は時代とともにすくれた義賊(ぎぞく)、あるいは侠客(きょうかく)として英雄視されていく。

 

 その要因は才知が豊かで、力や人情もすぐれている、と見なされたからだった。

 

 当時は今のようにテレビなどのメディアはないし、舞台で演じられた姿や噂によって忠治のイメージは広まったのである。

 

幕末の無能な武士に対する民衆の不満が劇に託される

 

 幕末の為政者には腐敗があったし、人びとの苦しみを救うこともできず、無能な武士も多かった。それだけに「博徒」や「伏客」が正義の人に見えることもある。

 

 だが、不逞(ふてい)の遊民であり、長脇差者(ながわきざしもの)にすぎない。関東では長脇差をさして往来したことから、博徒や侠客をたんに「長脇差」と呼んだ。

 

 長脇差とは一尺八寸(約55センチ)以上の大脇差(おおわきざし)のこと。 これを所持していた博徒や侠客が多かった。

 

 彼は代官らの無力ぶりをあばき、不正を働く役人をこらしめたりする。それか痛快だとして多くの人びとに支持された。

 

 実際には凶悪なのだが、国定忠治の活躍ぶりには別の味わいが加わっていく。芝居や講釈、浪曲、映画へと幕末か現代にいたるまで忠治の美化が進んだ。

 

 さらに多くの実録本が出版され、多くの侠勇伝(きょうゆうでん)が語られた。

 

 それと対立して忠治を悪人とする書き手もいたのである。

 

(次回に続く)

 

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中江克己なかえかつみ

北海道函館市生まれ。河出書房などの編集者を経て歴史作家に。著書は『大江戸〈奇人変人〉かわら版』(新潮文庫)、『忠臣蔵と元禄時代』(中公文庫)、『お江戸の意外なモノの値段』(PHP文庫)、『日本史の中の女性逸話事典』(東京堂出版)など多数。

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