韓国で進む「嫌中化」 日中韓の「相互不信」で東アジアはどうなるのか
2026年の旧正月(春節)、東アジアの観光地図が劇的に塗り替えられている。かつて中国人観光客の爆買いで沸いた日本の観光地が静まり返る一方で、隣国の韓国には記録的な数の中国人旅行者が押し寄せているのだ。しかし、この特需に沸く経済界の裏側で、韓国国内ではかつてないほど激しい反中感情が渦を巻いている。地政学的な対立と、国民感情の乖離がもたらすこの奇妙な現象は、今後の日中韓関係を占う象徴的な事態といえるだろう。
今回の事態の引き金となったのは、日中関係の急激な悪化である。昨年秋、高市総理が台湾有事は日本の存立危機事態になり得ると発言して以降、中国は日本への態度を硬化させている。中国当局は国民に対して日本旅行自粛勧告を出し、日本への直行便が大幅に減った。これにより、春節の海外旅行先として不動の人気を誇った日本が選択肢から外れ、その代替地として韓国が浮上したのである。
韓国政府はこの機を逃さず、中国人団体客へのビザ免除措置を延長するなど、積極的な誘致作戦を展開した。さらに、ウォン安元高の進行という経済的要因も重なり、ソウルの明洞や済州島、釜山といった主要都市には、日本を避けた数十万人規模の中国人観光客がなだれ込む形となった。韓国の小売業界やホテル業界にとっては、コロナ禍以降最大の書き入れ時となっており、株価も軒並み上昇傾向にある。
しかし、街に中国語が溢れ、レジに長蛇の列ができる光景を、韓国の市民は必ずしも歓迎していない。むしろ、中国人観光客の急増に比例するように、韓国社会では反中感情が急速に拡大している。特に顕著なのは、20代から40代にかけての若い世代だ。彼らにとって、中国はもはや経済的なパートナーではなく、自国の文化や安全保障を脅かす隣人と映っている。
この感情の根底には、長年積み重なってきた文化的な摩擦がある。キムチや韓服の起源を巡る文化工程論争に加え、中国人観光客による公共マナーの欠如や、観光地の混雑による生活環境の悪化が、ネット上での激しいバッシングを加速させている。SNSには、観光地での無秩序な振る舞いを告発する動画が拡散され、それに対する嫌悪のコメントが数万規模で寄せられる。一部の保守団体や市民の間では、中国人へのビザ免除措置の撤回を求める署名活動が活発化しており、経済的な利益よりも、生活の質と自尊心を優先すべきだという声が強まっている。
政治の現場も、この国民感情と無縁ではない。現在の韓国政権は中国との関係改善を模索しているが、野党や一部のメディアは、中国に対する弱腰な姿勢が国民の不満を招いていると批判を強めている。このように、対中感情が国内政治の道具として利用されることで、一般市民の“嫌中”はいっそう正当化され、エスカレートしていく悪循環に陥っている。
日本への反発から韓国を選んだ中国人と、その中国人を受け入れつつも心では拒絶する韓国人。2026年の春節が描き出したのは、表面的な経済交流の裏にある、深く冷え切った相互不信の構造である。観光客という人の移動は、本来であれば相互理解を深めるはずのものだが、現在の東アジアにおいては、むしろ互いの異質性を際立たせ、ナショナリズムを刺激する火種となっている。日中関係の悪化という漁夫の利で得た観光バブルが、韓国社会に深い分断の傷跡を残している事実は、今後の地域安定を考える上で看過できない課題である。

ソウル・南大門市場/写真AC