第2世代ジェット戦闘機の西側ベストセラー【マクドネルF-4ファントムII】(アメリカ)
超音速時代の到来~第2世代ジェット戦闘機の登場と発展~【第16回】
第2次世界大戦末期から実用化が推進された第1世代ジェット戦闘機は、朝鮮戦争という実戦を経験して完成の域に達した。そして研究はさらに進められ、亜音速で飛行する第1世代ジェット戦闘機を凌駕する超音速飛行が可能な機体が1950年代末に登場。第2世代ジェット戦闘機と称されて、超音速時代の幕が切って落とされた。前シリーズに続いて本シリーズでは、初期の超音速ジェット戦闘機(第2世代ジェット戦闘機)について俯瞰してゆく。

演習で18発もの500ポンド低抵抗爆弾Mark82を一斉に投下するマクドネルF-4EファントムII。本機は戦闘爆撃機としても制空戦闘機としても優れた性能を発揮した。
F-4ファントムIIといえば、わが国の航空自衛隊も保有し、約半世紀にもわたって運用してきたので、多くの方がご存じのジェット戦闘機ではないだろうか。
1950年代中頃、アメリカ海軍は全天候型の艦上戦闘機を求めた。この機体に求められた主な任務は、艦隊の防空であった。
東西冷戦真っ最中の当時、特に西側の軍事上の風潮として誘導ミサイル万能論が唱えられており、きわめて簡単に説明すると、戦闘機は誘導ミサイルの運搬装置(ミサイル・キャリアー)のように考えられる傾向が強かった。そしてこの考え方に拍車をかけたのが、戦闘機の高速化によって格闘戦を行っても敵機を照準器内に捉えられている時間が短すぎて、発射速度の上限もあり航空機関銃では命中弾を得にくいが、敵機を追尾して命中する誘導ミサイルなら、相応の命中が期待できるという考え方であった。
そこでマクドネル社では、アメリカ海軍の要望に対して双発でパイロットの他にレーダー管制員が登場する複座の艦上戦闘機を提案。武装に関しては、海軍の要望を容れて機関銃を装備せず(のちに追加装備)、シンプルな赤外線誘導のサイドワインダーと、レーダー誘導のスパローの両空対空ミサイルを空戦用の主武装とする機体を提案。本機がF-4ファントムIIとして採用された。
フライトテストの段階では、従来の戦闘機のような優美さに欠けるファントムIIは「醜いアヒルの子」と称されたが、性能面では大変優れており、運用上の制約が多い艦上機ながら、当時の空軍のセンチュリー・シリーズを凌駕する総合性能を示した。また、時のロバート・マクナマラ国防長官は合理化とコストダウンの観点から、空軍と海軍の機体の共通化を推進しており、ファントムIIは、当初F-110スペクターの名称で空軍にも採用された。
ファントムIIは、ベトナム戦争では海軍、海兵隊、空軍で運用され、戦闘爆撃機としての対地攻撃と、北ベトナム空軍のMiG戦闘機各型を相手とする制空戦闘に大活躍。また、イスラエルに輸出された本機も、中東戦争で同様の活躍を示した。
旧西ドイツも採用しており、イギリスは、エンジンを自国のロールスロイス・スペイに換装した型式をブリティッシュ・ファントムの通称で採用。また日本は、世界で唯一の本機をライセンス生産した国となったが、2020年に運用を終了している。なお、アメリカでの特殊改造型を除く一般型の引退は1996年であった。