デハヴィランド社製双ブーム式ジェット戦闘機の最終発展型【デハヴィランド・シーヴィクセン】(イギリス)
超音速時代の到来~第2世代ジェット戦闘機の登場と発展~【第14回】
第2次世界大戦末期から実用化が推進された第1世代ジェット戦闘機は、朝鮮戦争という実戦を経験して完成の域に達した。そして研究はさらに進められ、亜音速で飛行する第1世代ジェット戦闘機を凌駕する超音速飛行が可能な機体が1950年代末に登場。第2世代ジェット戦闘機と称されて、超音速時代の幕が切って落とされた。前シリーズに続いて本シリーズでは、初期の超音速ジェット戦闘機(第2世代ジェット戦闘機)について俯瞰してゆく。

空中給油ユニットを懸吊し、バディ・システムで僚機に空中給油を行っているシーヴィクセン。独特の機体形状がよくわかる。
列強が第1世代ジェット戦闘機の開発合戦の最中にあった第二次世界大戦終戦直後の時期、世界屈指の名門航空機メーカーであるイギリスのデハヴィランド社は、双ブーム形式の機体を持つジェット戦闘機ヴァンパイアを実用化した。
双ブーム形式とは、主翼の中央部にジェットエンジンと操縦席が置かれた短い胴体を備え、その主翼の左右から、尾翼を支える細い胴体が後方に伸びた機体形状のことで、デハヴィランド社は遡ること第二次世界大戦初期には、この形状のジェット機の開発を開始していた。
第二次世界大戦終戦2年後の1947年から部隊での運用が始まったヴァンパイアは、飛行性能に優れており好評を得た。そこでデハヴィランド社は、同機をベースにわずかな後退翼を導入して改設計を施したヴェノムを開発。1952年から部隊配備が行われた。
一方、イギリス海軍は、ヴェノムを並列複座化してレーダーを搭載した全天候艦上戦闘機のシーヴェノムを採用し、1954年から部隊配備している。同機はフランスのシュド・エスト社が独自改修型のアクィロン(フランス語で「北風」の意)をライセンス生産し、同国の海軍航空隊で空母艦上機として運用された。
イギリス空軍はヴェノムの高性能化を要求したが、その内容は単なる改修程度では済まなかった。そこでデハヴィランド社は、双ブーム形式の機体であり、左右並列でジェットエンジンを装備するため左右の胴体が結合した双胴式として、全天候化に際して有利なレーダー操作員席を双胴の右側、操縦席を双胴の左側に設けた。
この機体はヴィクセンと命名されたが、1952年のファーンボロー国際航空ショーで、試作機が観客を巻き込んだ死者31名、負傷者約60名という空中分解墜落事故を起こし、イギリス空軍は同機をキャンセル。
だがイギリス海軍は、ヴィクセンの問題点を修正のうえ空母艦上機としての改修を施し、シーヴィクセンとして採用した。そして1959年から部隊配備が開始され、1972年に退役。かくして、シーヴィクセンはヴァンパイアから3代にわたって続いた、デハヴィランド社の双ブーム式ジェット戦闘機の最終発展型となったのだった。