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朝ドラ『あんぱん』田川岩男の遺族への通知と補償はどうなる? 家族を悲しみのどん底に突き落とす「死亡告知」と「戦死公報」

朝ドラ『あんぱん』外伝no.43


NHK朝の連続テレビ小説『あんぱん』は、第12週「逆転しない正義」が放送中。嵩(演:北村匠海)の小学校時代の同級生・田川岩男(演:濱尾ノリタカ)が、可愛がっていたリン(演:渋谷そらじ)に撃たれて死亡した。実は、リンの親の仇が岩男だったのである。岩男の家族には、それを伏せて「名誉の戦死」が伝えられることになった。今回は、戦地で死亡した場合の遺族への通知や補償について取り上げたい。


■「名誉の戦死を遂げられて、おめでとうございます」という時代

 

 朝ドラ『あんぱん』に登場する田川岩男は、嵩やのぶの同級生のガキ大将として登場した。実家は材木の商いで大成功した家で、御免与町でも有数のお金持ち。岩男はそこの跡取りで、のぶの妹の蘭子に求婚した昭和11年(1936)時点で「稼業を継ぐ準備が整った」と発言していた。入隊前に結婚し、息子が誕生しているが会ったことはないという。嵩と福州で再会した時の階級は兵長で、野戦任務についていたという人物である。

 

 岩男は会えない息子の代わりのように可愛がっていた現地の子供・リンに射殺される。しかし、真実の死因は伏せて「名誉の戦死を遂げた」と家族に伝えるよう手配する会話も挟まれた。やなせたかし氏は戦地でこれに似た経験をしている。福州上陸の際、誤って鉄舟から落下した兵がいた。つまり事故死だったが、家族には「上陸時に敵との交戦で名誉の戦死」と伝えることになったという。

 

 では、その死はどのように伝えられたのか。基本的には部隊から陸海軍を経由して本籍地の役場に報せが届く。一般的には兵事係がそれを受け取り、死亡告知書を作成した。そこには氏名や階級、戦死した場所や簡単な状況などが書かれたという。

 

 それとは別に後日届けられるのが「戦死公報」だ。国からの公式な戦死の通知ということになる。大抵はこれをもって“覆ることのない決定的な戦死”ということで、葬儀が行われた。まだ日本軍が勝利していた頃は遺族のもとに遺骨が届けられたり、葬儀も村を挙げて盛大に執り行ったりしていたが、戦況が悪化するにつれて遺骨すら戻らないことがほとんどという状況になり、葬儀も簡素なものになっていった。遺骨の代わりに、名前が書かれた小さな木片や石が入っていることも多かったという。

 

 昭和19年(1944)頃になると、ただ戦死公報で家族の死を知らされるのみというのが普通になった。家族が戦死した家には「誉の家」などの文字が書かれた木札がかけられる。これはその家から戦死者が出ていることを示すもので、人々はこうした家の前を通る度に頭を下げるよう言われたのだった。

 

 戦死者の遺族にはどのような補償があったのかというと、戦死した家族に支払われる弔慰金などが挙げられる。しかし、この金額は召集される前にどのような職・地位にあったかというのが基準になっていたらしい。よって、大企業のエリートサラリーマンと、地方の自営業・農業・漁業従事者とでは大きな差があった。

 

 戦地へ行った家族の死を知らされる遺族の悲しみは筆舌に尽くしがたいが、当時はあからさまに悲しむことは許されない。国防婦人会をはじめ、近所の人々は「名誉の戦死を遂げられて、おめでとうございます」「一人息子だからと泣いていてはいけません、2人亡くした方もいるのですから」というように声をかけるのが普通だったし、遺族も人前で泣くことはできず「ありがとうございます」「誇りに思います」と気丈に振る舞わなければならない時代だった。

 

 ドラマでは岩男という1人の人物を通して、その死の虚しさや、故郷で待つ家族にありのままの状況が伝えられないことの理不尽さを描いたのである。短い新婚生活を共にした妻と、会えないままだった息子、そして故郷には大黒柱を失った家族……そういう人々が当時の日本には数えきれないほど存在したのだ。

イメージ/イラストAC

<参考>

■やなせたかし『アンパンマンの遺書』(岩波現代文庫)
■やなせたかし『ぼくは戦争は大きらい: やなせたかしの平和への思い』(小学館クリエイティブ)
■中公ムック 歴史と人物19『日本軍兵士のリアル 教科書がおしえない太平洋戦争』(中央公論新社)
■一ノ瀬俊也『皇軍兵士の日常生活』(講談社)

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歴史人編集部れきしじんへんしゅうぶ

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