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朝ドラ『あんぱん』「日本は戦争に負けると思った」 やなせたかし氏が「戦力不足」を感じた理由とは?

朝ドラ『あんぱん』外伝no.39


NHK朝の連続テレビ小説『あんぱん』、第11週は「軍隊は大きらい、だけど」が放送された。嵩(演:北村匠海)は伍長として日々訓練に励んでいたが、いよいよ部隊が中国に送られることになった。福建省にたどり着いた嵩や今野康太(演:櫻井健人)は、小学校時代からの付き合いである田川岩男(演:濱尾ノリタカ)と再会した。さて、史実ではやなせたかし氏は少し違った立場におり、日本の敗戦を予感していたという。今回はそのエピソードを取り上げよう。


 

■史実では軍曹として暗号班に所属していた

 

 昭和16年(1941)、やなせたかし氏(本名:柳瀬嵩)が22歳の時に赤紙が届いた。通常は故郷に戻ってそのまま高知聯隊に入隊するところだが、九州小倉の野戦重砲隊への入隊が命じられる。正式には、陸軍の「第12師団野戦重砲兵第6聯隊補充隊」に加わることになった。「補充隊」というのは、中国へ派遣されている聯隊本体の留守部隊ということである。

 

 日々厳しい軍の規律と訓練で心身を消耗させ、古兵からの“新人しごき”、具体的にはビンタや拳骨などに耐えながら過ごしていたという。なかにはあまりの理不尽さに耐えかねて脱走する兵もいたそうだが、発覚すると連帯責任でまた暴力を受けた。

 

 そんな嵩さんだが、幹部候補生試験を受けることになる。試験の結果そのものは悪くなかったものの、病馬棟で寝ずの番をしている最中に居眠りしたことがバレて「甲種幹部候補生」になれず、「乙種幹部候補生」となった。部隊で下士官の教育を受け、段階を踏んでやがて軍曹に昇格した嵩さんは、暗号の教育を経て暗号班に所属したという。ちなみに、ドラマでは軍曹の1つ下の「伍長」で留まっており、暗号班にも入らないまま中国へ派遣されていた。

 

 そんな嵩さんが「日本は敗戦する」と予感したできごとがあった。まだ小倉で訓練を受けている頃、聯隊の兵器を点検することがあった。聯隊にあったなかで一番優秀なドイツ製の大砲ですら製造年の古いもので、それ以外にも基本的に古くて改良されていない武器がほとんどだったという。やっと新品の大砲が与えられたかと思うと、それは国産かつ頼りないつくりをしていたらしい。そうした武器の実情を目の当たりにして、嵩さんは「この戦争には勝てない」と感じたのである。

 

 嵩さんがいた中隊では、武器の管理も杜撰だったらしい。著書『アンパンマンの遺書』によると、武器庫の天井裏には普段使用されない余剰武器や隊員の数以上の馬具が放置されていた。たまに検査官が来るときにはこれらの武器を提出し、ごまかしていたという。つまり、普段使用していない武器を提出しているにも関わらず、「日頃から使用しているのに手入れが行き届いていてよろしい」という評価を得るのである。

 

 下士官として、1人の軍人として心身ともに周囲からも「変わった」と認められるようになった嵩さんだったが、内心では戦力不足による敗戦を確信していたようである。そんななか、中国への派遣が決まり、長時間輸送船に乗って戦地へと向かう嵩さんは何を考えていたのだろうか。

イメージ/イラストAC

<参考>

■やなせたかし『アンパンマンの遺書』(岩波現代文庫)
■やなせたかし『人生なんて夢だけど』(フレーベル館)

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歴史人編集部れきしじんへんしゅうぶ

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