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性のプロではない素人の娘のことを「地色(じいろ)」【江戸の性語辞典】

江戸時代の性語72


ここでは江戸で使われていた「性語」を紹介していく。江戸時代と現代の違いを楽しめる発見がある。


 

■地色(じいろ)

 

 遊女や芸者でない素人の女を、地女(じおんな)とか地者という。

 

 地女との色事を地色という。つまり、遊女や芸者ではない、普通の娘とのセックスを地色といった。

 

 図は、画中に「させたき盛りの景色」とあり、男が恋しい盛りの娘。こうした娘との色事が地色である。

 

【図】男がほしい娘(『会本妃多智男比』喜多川歌麿、寛政七年、国際日本文化研究センター蔵)

 

(用例)

①『風流色歌仙』(西川裕尹か)

 

 子供ができないのは、夫に子種がないからではないかと悩んでいる女。ある男が、自分はこれまで方々の女にはらませたので子種が多いとして、こう口説く。

 

「今まで地色ではだいぶん難儀したゆえ、こりごりとして近年、地色はとんとやめて、いたしませぬが、おまえの子を産みたいと言いなさるから、ちょっと私と一番しなさると、おまえの為によかろ」

 

 子供が欲しければ、俺としろと、言っていることになろう。

 

 

②春本『艶色吾妻鑑』(不明、寛延元年頃)

 

 男が吉原で、かつてお互いに気がありながら、事情があってままならぬ仲だった遊女と初めて床入りした。

 

 女郎も思う男に会うて堪能するほど気をやり、

「うれしゅうて、うれしゅうて、どうもなりんしん。必ずお見捨てあそばすな」

 と言えば、

「そもじさえ変わり給わずば、毎夜毎夜、通い来て、問い問われ申さん。客じゃないぞや」

 と言えば、

「あい、わっちが地色さ」

 と引き寄せて、だきしむる。

 

 女郎は遊女のこと。

 

この「地色」は、客と遊女の関係ではなく、真の恋人という意味。

 

 

③春本『古今枕大全』(小松屋百亀、明和年間)

 

 地色は女郎とは大きな違いにて、まず互いに飽きがくるまでが互いに実気にて、可愛い可愛いに玉茎(まら)の味と玉門(ぼぼ)の味とが気味がよく、忍び合いのことなれば、暗がりのこそこそゆえ、食うても食うても食い足りねば、なおしたく……

 

「女郎」は遊女、玄人の女。

 

「実気」は本気、真剣の意味。

 

 

④『欠題艶本」(不明)

 

 世の中に地色多くして、色男と噂されるは、すべて心強く、押しつけわざすることなれば、数はこなせぬものなり。

 

 図々しく、強引な男でないと地色はできない、と。

 

 

⑤春本『会本色形容』(喜多川歌麿、寛政十二年)

 

 ある商家の番頭は三十七、八歳になるが、

 

 相模女は言うに及ばず、房州鍋の尻早き下女にさえも、口説き寄れば、はねのけられ、地色ということは、この歳まで、いっぺんも覚えなく、

 

 番頭は、好色とされる相模や房州出身の下女からも相手にされず、素人女とは一度もセックスをしたことがなかった。もっぱら女郎買いで性欲を発散していた。

 

 相模女については、第26回参照。

 

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過去記事

永井 義男ながい よしお

1997年『算学奇人伝』で開高健賞受賞。時代小説のほか、江戸文化に関する評論も数多い。著書に『江戸の糞尿学』(作品社)、『図説吉原事典』『江戸の性語辞典』『剣術修行の廻国旅日記 』(以上、朝日新聞出版)など多数。

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