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【江戸の性語辞典】仲むつまじい男女の意味した「ちんちん鴨」

江戸時代の性語⑫


日本語は時代時代で変化していくもの。江戸時代に使われてた言葉のなかでも今見れば、予想がつかない意味で話されていた言葉や現在とはまったく異なる意味で使われていたものなどが中にはある。ここでは江戸で使われていた「性にまつわる言葉」を紹介していく。


 

■ちんちん鴨(ちんちんかも)

 

 男女の仲がむつまじいこと。性行為をさすこともある。

「ちんちんかもかも」と言うこともあった。

 

吉原の芸者が客の男と隠れて会う場面。(戯作『春色梅美婦禰』/国立国会図書館蔵)

 

【用例】

①戯作『婦女今川』(二世南仙笑楚満人著、文政十一年)

 

 腰元お花とて、器量はさのみよくもなけれど、芸者風にて気軽者ゆえ、いつしか若旦那藤次郎とちんちん鴨、吸い物もいっしょに食うというような、うまい仲ゆえ、

 

 女房のいる藤次郎は、女中のお花に迷ったわけである。

 

 

②戯作『春色梅美婦禰』(為永春水著、天保十二年)

 

 吉原の芸者は、客の男と性的な関係を持つことは固く禁じられていた。しかし、男女の仲には、禁じられれば禁じられるほど燃え上がるという厄介な傾向がある。

 

 男たちが、ある芸者の噂をする……

 

「自由に会うこともしにくいわけだから、揚屋町(あげやまち)のさる婆ぁさんの内を内緒で頼んで、朝湯やお客にかこつけて、ちんちん鴨の小鍋立てさ」

 

 芸者は知り合いの老婆の家を借りて、男と忍び会っていたのである。揚屋町は、吉原の一画。

 

 

③風聞集『藤岡屋日記』(藤岡屋由蔵編)

 

 下谷長者町に和泉屋という商家があったが、嘉永の初め、主人が五十数歳で死んだ。三十歳の女房はかねてから、五歳年下の奉公人の金兵衛と密通していたが、亭主の死をこれさいわいと、金兵衛を養子にした。

 

 表向きは養子にて、内証は亭主ゆえ、今までは二十も年の上の亭主を守り至るに、五つも下の亭主ゆえに、いかばかりかこれを可愛がり、金兵衛も昼は母なれども、夜は女房ゆえに、いかばかりか孝行を尽して、ちんちん鴨の楽しみ、

 

 昼は母と息子、夜は夫婦と言うわけである。養母と養子の、いわば近親相姦だった。

 

 金兵衛にとって親孝行は、養母とのセックスである。

 

 淫靡なちんちん鴨の楽しみと言えよう。

 

 

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過去記事

永井 義男ながい よしお

1997年『算学奇人伝』で開高健賞受賞。時代小説のほか、江戸文化に関する評論も数多い。著書に『江戸の糞尿学』(作品社)、『図説吉原事典』『江戸の性語辞典』『剣術修行の廻国旅日記 』(以上、朝日新聞出版)など多数。

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