寄席で男たちを魅了した娘義太夫─見た目は美少年、中身は女の誘惑─
江戸の性職業 #023
■美少年の魅力で男性客を惹きつけた

図1 高座で演じる娘義太夫、国際日本文化研究センター
人形浄瑠璃(文楽)は、男の太夫が浄瑠璃の義太夫節(ぎだゆうぶし)を語り、三味線弾きが三味線を弾き、人形遣いが人形を操作する。
人形を登場させるため、人形浄瑠璃を演じるには大きな舞台が必要となる。
いっぽう、寄席などでは、人形なしで、浄瑠璃と三味線だけのことがあった。つまり、太夫が義太夫を語り、三味線弾きが三味線を弾く。
さて、義太夫を語る太夫は本来、男である。
ところが、享和・文化(1801~18)ころ、義太夫を語る若い女が寄席に出るようになり、人気を博した。これを、娘義太夫(むすめぎだゆう)や、女義太夫と言った。
図1は、高座で演じる娘義太夫の光景である。時代は明治初期だが、風俗などは江戸時代と基本的には同じと見てよい。
ふたりとも女だが、裃(かみしも)を着て、男のいでたちをしている。また、ここに人気の理由があった。
江戸時代後期の天保(1830~44)になると、娘義太夫の人気は高まった。娘義太夫を目当てに男たちが詰めかけ、寄席は満員になるほどだった。
ひいき客は、美人の義太夫語りを宴席に呼んで酒の相手をさせ、気前よく祝儀を渡す。
客の中には、寄席の席亭にそっと依頼する者もいた。
「あの女としっぽり濡れてみたい。金に糸目はつけないから、手配してくれ」
やがて、金さえ払えば、娘義太夫の女が男と寝るのは当たり前になった。
かくして、娘義太夫の芸人はセックスワーカーになったのである。
ところで、娘義太夫の芸人は男の格好をしている。つまり、美少年の魅力であろう。ところが、寝床では女である。
一種の倒錯の魅力を持ったセックスワーカーといえようか。

図2『春色梅暦』(為永春水著、天保4年)、国会図書館蔵
図2は、画中に「竹蝶吉、お屋敷へ召さるる図」とある。
娘義太夫の竹蝶吉(たけ・ちょうきち)が、武家屋敷に招かれ、供を連れて出向くところである。
蝶吉と名乗り、髪は若衆髷(わかしゅわげ)に結っているので、美少年に見える。
しかし、実体は女である。「男装の麗人」といおうか。
招いた武士は、義太夫を堪能したあと、蝶吉と倒錯の性を享楽するつもりなのだ。

図3『春色梅暦』(為永春水著、天保4年)、国会図書館蔵
図3は、書物を読む際に用いる見台の側に立つ竹長(蝶)吉を描いている。外見は美少年だが、女である。