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Ifの信長史 第11回~安土を起点に大航海時代の幕が開く~

諸外国との国交を推し進め、武器の無い世を作る

日本中で巨大な外洋船が貿易にいそしむ新世界

信長が作った南蛮船 CG作成/中村宣夫

 太閤となった信長は、その政体について大掛かりな改革をやってのけた。織田家の仕組みをそのまま取り込んだものといってもいいのだが、そこは、信長の新たな思想も色濃く含まれていた。海外への雄飛であり、それは、以下の人事からも窺い知れる。すなわち、南蛮貿易担当長官に茶屋四郎次郎、蝦夷樺太開拓長官に徳川家康、台湾琉球開拓長官に羽柴秀吉が置かれ、軍事行動によって領土を広げ、産物を搾取するというのではなく、あくまでも貿易を主眼とし、その土地の人々と開拓を執り行なってゆくという、きわめて平和裡に物事を進めてゆくものだった。

 

 信長は、東北を平定するにあたり、武力は所詮武力に過ぎず、これからの世に必要なものは人間同士の信頼なのだと思い知らされた。たとえば、蝦夷や樺太にはアイヌと呼ばれる人々が定住し、台湾には高砂という人々がいて高山という国を築いているという。そうした人々と手を取り合い、拓殖を執り行い、香港、マニラ、マラッカ、バタビア、ゴアなどといった南蛮との貿易をより盛んにすれば、国はいっそう繁栄してゆくにちがいない。

 

 信長は南蛮船を原型にして竜骨を持った日本独自の外洋船を次々に造らせ、世界の海へと漕ぎ出させた。いってみれば、この国における大航海時代の始まりだった。

 

 戦のない世が訪れ、諸国にはさまざまな宗教による神社仏閣が築かれた。そうした中には教会や神学校も造られるという、延暦寺や本願寺と熾烈な戦いを繰り広げた信長とは打って変わったような思想がそこにあった。宗教は自由にするというのが大前提で、ことにキリスト教の布教について、信長は後押しすらした。さまざまな宗徒を散らばせることにより、大がかりな反乱を未然に防ぐという意味合いもあったし、海外の宗教を取り入れることにより諸外国との貿易を増やせるという思惑も濃厚にあった。

 

 さらに信長は刀狩りや検地も施行した。ことに武家から、いっさいの銃火器を没収した。武器のない世の中をつくるというのが大義名分で、実のところは諸大名の力を徹底的に削ぎ落とすというのが狙いだった。ただし、北方開拓の徳川家康と、南方進出の羽柴秀吉だけは例外とされた。どのような危険が潜んでいるか見当がつかないからというのが理由だったが、さすがの信長もこれだけは特例として認めざるを得なかった。が、ともかくも、この国から銃火器は消えた。

(次回に続く)

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秋月達郎あきづき たつろう

作家。歴史小説をはじめ、探偵小説から幻想小説と分野は多岐にわたる。主な作品に『信長海王伝』シリーズ(歴史群像新書)、『京都丸竹夷殺人物語: 民俗学者 竹之内春彦の事件簿』(新潮文庫)、『真田幸村の生涯』(PHP研究所)、『海の翼』(新人物文庫)、『マルタの碑―日本海軍地中海を制す』(祥伝社文庫)など

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