元阪神タイガース・横田慎太郎の「純粋」で「ひたむき」で「まっすぐ」な生涯を描いた『栄光のバックホーム』
2013年、阪神タイガースへドラフト2位で入団した高校生外野手がいた。その名は横田慎太郎。才能に溢れ、人柄も良く、将来を大きく期待された。しかし、2016年の春。突然の病魔が彼を襲う。誰からも愛された男は、いかに生ききったのかーー
◼️2016年の開幕オーダーは夢が詰まっていた
まず、断っておかなければならない。筆者は阪神タイガースファンである。それも毎年、全試合を録画して観返してしまうほどのめり込んでいる。冷静な気持ちで観られたかどうか、自信はない。
病に斃れる野球選手の映画である。
そう言われると1942年にハリウッドで公開された『打撃王』(サム・ウッド監督)が思い浮かぶ。
メジャーリーグで2130試合連続出場を果たし、数々のタイトルを獲得した“アイアンホース”ことルー・ゲーリッグの人生が描かれている。
ルー・ゲーリッグは1931、34年の日米野球で来日もしており、1934年に草薙球場で行われた試合では、快投を続ける“スクールボーイ”沢村栄治からソロホームランを放ち、最強米軍の面目を保ったことは野球好きの間では広く知られている。
しかし、現役中の1939年に筋萎縮性側索硬化症(ALS)を発症した。それが原因で野球を辞めざるを得ず、2年後に37歳の若さで世を去ることになる。
さて、本作の主人公は元阪神タイガースの横田慎太郎である。プロ野球選手として、さあこれから、という時に脳腫瘍に冒され、厳しい道を歩んだ。
現役時代の成績をゲーリッグと比べるのは酷である。正直、比較にならない。
だが、筆者はタイガースファンである。贔屓の引き倒しと承知の上で、書く。潜在能力だけならゲーリッグが相手とて良い勝負だったのではないかと。
2016年の開幕オーダーには無限の夢があった。
1番レフト髙山俊、2番センター横田慎太郎。東京六大学の最多安打記録を48年ぶりに塗り替え、鳴り物入りで入団したゴールデンルーキー髙山俊と高卒3年目にして覚醒の兆しを見せた横田慎太郎が並んでいた。
2005年以来、優勝を逃し続けるタイガースだったが、我がチームには安打製造機髙山俊と雄大な体格からスケールの大きなプレイを見せる横田慎太郎がいる。この2人が夢へと導いてくれるのではないか。そんな気にさせてくれた。
結果的に、この年の横田は一軍の壁に跳ね返されるのだが、これからの飛躍を誰もが信じて疑わなかった。来年こそは……。そんな折、病がその行く手を阻んだ。
本作は、一人の男が厳しい道に立たされながらも、一歩ずつ前進していく物語である。そして、共に歩み続けた母子の、家族の物語である。
闘病記と言ってしまえばそれまでだし、お涙頂戴のストーリーと言われてしまうかもしれない。でも、それでも良い。
ここには横田慎太郎の歩んだ偽りのない、とてつもなくカッコいい人生がつまっているのだから。
筆者は、ファンとしてメディアを通し、リアルタイムで横田慎太郎の軌跡を追ってきた。スクリーンに描かれるドラマに、いわば追体験し、そのつど涙があふれ出るのを止めることが出来なかった。
これはファンだからなのだろうか。いや、きっとファンならずとも、横田慎太郎のことを知らなかった人にも届くはずである。
横田慎太郎を演じたのは松谷鷹也(まつたにたかや)であった。
松谷は野球経験者であり、プロ野球選手と遜色ない体格を有している。生前の横田慎太郎とも親交を結び、その人となりを肌で感じとり、まるで生き写しのように、横田慎太郎の姿をスクリーンに投影した。そこには、テレビやYouTubeで観た横田慎太郎が、まさにそのままにいるようであった。お世辞抜きに出色の演技であった。溢れ出る涙のワケは、松谷鷹也の力が大きい。
ゲーリッグを演じたゲイリー・クーパーが高く評価されたように(第15回アカデミー賞主演男優賞ノミネート)、この映画における松谷鷹也にも大きな賛辞を送りたい。
題名にもなったバックホームの描写はもちろんあるし、それはそれで目頭が熱くなるが、この物語において、それはメインではない。これは、野球を愛した青年の、純粋で、ひたむきで、まっすぐな映画なのだ。
虎党としては、闘志と勇気を胸に羽ばたいていった横田慎太郎の姿を、多くの人に観てもらいたいと強く願う。

取り壊し前の鳴尾浜球場/PIXTA