「台湾有事」への言及に対して中国が検討する「対日報復措置」とは？　経済・外交・軍事で日中関係はどうなる？

プロバンス

世界史近現代 2025.11.20

　高市早苗首相の「台湾有事」に関する国会答弁と、それに対する中国外務省の強烈な抗議は、日中関係の緊張を一気に高めた。中国が金杉憲治駐中国大使を呼び出し、「強烈な抗議」を行ったことは、単なる外交儀礼ではなく、具体的な対抗措置の発動を示唆する深刻な警告と捉えるべきだ。今後、中国政府が検討・実行に移す可能性のある対日報復措置は、経済、外交、軍事の三つの分野にわたる、複合的なものとなる公算が大きい。

■経済的な圧力の強化：最も現実的な選択肢

　中国にとって最も使いやすく、かつ日本に対して実効性の高い報復手段は経済的な圧力である。過去、尖閣諸島問題や歴史認識問題で、中国は稀土類（レアアース）の輸出規制や、日本製品の不買運動の煽動、日本の農水産物に対する輸入検査の強化など、非公式な経済制裁を発動してきた。

　今回のケースでは、台湾有事という核心的利益に関わる問題であるため、報復の度合いはより強まる可能性がある。具体的には、日本からの半導体製造装置や高精密部品の輸入に対する規制強化、さらには中国市場に進出している日系企業への査察強化や罰則の適用などが考えられる。特に、日本が輸入する重要物資の供給遅延や、観光客の制限（すでにコロナ禍で制限されているが、再開後の厳格化）を通じて、日本経済への心理的・実質的な打撃を狙ってくるだろう。これは、日本の政財界に圧力をかけ、日本政府に答弁撤回を促すための懲罰の意味合いが強い。

■外交・世論戦における攻勢：国際的な孤立化の試み

　外交面では、国際的な場で日本の立場を批判し、孤立化を図る攻勢を強めるだろう。具体的には、国連やASEANなどの多国間会議の場で、日本の防衛政策、特に集団的自衛権の行使容認が、地域の平和と安定を脅かすものであると喧伝し、軍国主義の復活といったプロパガンダを強化する。　

　また、日本国内の親中派・反戦派に対する働きかけを強め、高市首相の答弁が一部の極端な意見であり、日本国民の総意ではないという分断工作を進める可能性も高い。駐日中国大使館などから、日本のメディアや知識人に対する「誤ったシグナル」を是正するための、より積極的かつ攻撃的な情報発信が増加するであろう。　

■軍事的示威行動の拡大：緊張の高まり

　最も懸念されるのは、台湾周辺や尖閣諸島を含む東シナ海における軍事的示威行動の拡大である。高市首相の答弁は、日本が集団的自衛権を行使し、米軍と連携して台湾を防衛するシナリオを明確に示唆したものであり、中国にとっては核心的なレッドラインに対する挑戦と映っている。

　報復として、中国海軍艦艇や海警局船による尖閣諸島周辺の領海侵入回数の増加や、台湾と日本の間の空域・海域における大規模な軍事演習の実施が予測される。これらの演習は、日本の自衛隊に対する威嚇を主目的とし、「日本が台湾有事に介入すれば、自衛隊も攻撃対象となり得る」というメッセージを国際社会に強く発信する狙いがある。　

　これらの措置は、段階的かつ複合的に実行される可能性があり、日本政府は、対話の窓口を維持しつつも、経済・外交・安全保障の各方面で、中国からの圧力に耐えうる強靭なレジリエンスを構築することが急務となっている。日中関係は、台湾有事の可能性を巡る認識の隔たりから、これまでで最も厳しい局面を迎えていると言えよう。