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菩薩になったビリケンさん? 日本最古級のビリケンさんを信仰している神社 西出鎮守稲荷神社・松尾稲荷神社/神戸市兵庫区

神社仏閣好きラノベ作家 森田季節の推し寺社ぶらり【第36回】


 

■日本の神様に溶け込んだビリケンさん

 

 日本の神社で信仰される神様は、普通に考えれば日本由来の存在です。記紀神話の中で新羅からやってきたと書いてあるアメノヒボコとか、縁起で最初は天竺にいたことになっている牛頭天王とかもいますが、韓国でアメノヒボコ信仰はないでしょうしインドで牛頭天王信仰もないわけで、こういう神格も設定では海外出身ということになっていますが、日本だけで信仰されています。

 

西出鎮守稲荷神社。奥の社殿にビリケンさんが祀られている

 そんな中で確実に海外から来てることがわかる神様がいます。それがビリケンさんです(呼び捨てだとすわりが悪いのでさん付けにします)。20世紀初期にアメリカで生まれ、そう時間を置かず日本にも伝わった存在です。今ではなんとなく大阪のシンボル的な扱いをされがちですが、もちろん大阪以外にも伝わりました。

 

 このビリケンさんを境内に安置している神社が至近距離で神戸市内に2箇所あります。まずは神戸駅から10分ほど歩いたところにある西出鎮守稲荷神社へ。高田屋嘉兵衛が奉納した灯籠などがあるものの、基本的には街のちょっとしたお稲荷さんという風情の神社です。ですが、この稲荷社の透明な窓をのぞき込むと、本殿の横に座布団に鎮座するビリケンさんが! 神社の看板によると、「ピリケン菩薩(原文ママ)」とあり、戦前の像のようです。菩薩扱いなんですね。

 

 ここから少し歩いて松尾稲荷神社へ。こちらは看板にも大きく「ビリケンさん」とありますし、境内には平成の新しいビリケンさんの像も安置されていて、大々的に扱われています。この神社は社殿を社殿の形をした覆いの建物でトンネルのようにかぶせた造りになっています。提灯がたくさん吊り下がった覆いの中を進むと、隅にまるでお地蔵様のように祀られているビリケンさんがいらっしゃいます。

松尾稲荷神社の平成のビリケンさん

 最初に目にした時、「完全に日本の神様になっている」と思いました。事前にビリケンさんが祀られていると知らなければ、お寺によくいる「おびんずる様」(十六羅漢の一人で、像を撫でるとその部分の病気が治ると言われており、よく寺のお堂の外陣に安置されている)の像が神社に安置されているのだろうぐらいに思ってしまったでしょう。それぐらい前掛けをした姿が和の空気を出していました。そもそも、線香やろうそくを奉納する場所も前にありますし。神社では「松福大神」という名前で信仰されています。

 

 神社のホームページの説明によれば、大正時代には作られた像ということになります。少なくとも、大半の日本人よりはこのビリケンさんのほうが年上で先輩です。そういう意味では、「日本の神様ですよ」という顔で鎮座されているのも当然で、和風だとか言うほうがナンセンスなのかもしれません。

 

世界中のビリケンさんを紹介

 

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森田季節もりたきせつ

1984 年生まれ、兵庫県出身。作家。東北芸術工科大学特別講師。京都大学文学部卒業、京都大学大学院文学研究科修士課程中退(日本史学専修)。大学院在学中の2008年、『ベネズエラ・ビター・マイ・スウィート』で第4回MF文庫Jライトノベル新人賞優秀賞を受賞してデビュー。主な著書に『スライム倒して300年、知らないうちにレベルMAXになってました』(GAノベル)、『物理的に孤立している俺の高校生活』(ガガガ文庫)、『ウタカイ 異能短歌遊戯』(ハヤカワ文庫)などがある。

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