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「妖怪からかさ小僧」のような建築が…昼でも薄暗い場所に建つ 傘堂/奈良県葛城市

神社仏閣好きラノベ作家 森田季節の推し寺社ぶらり【第33回】


妖怪にたとえたくなる建物

 

 この記事はずっと変わった寺社を紹介してきました。今回紹介する場所は厳密に考えるとそのルールから外れています。「だったら紹介するなよ」と思う方もいるでしょうが寺院の親戚のような存在なのと、あまりにも目立つヴィジュアルなので、特例で紹介いたします。寺院に近いと言うのにもちゃんとした根拠がありますので、最後までお付き合いください。

 

 近鉄南大阪線の二上神社口駅(にじょうじんじゃぐちえき)という小さな駅で降りてしばらく歩くと、やがて近畿自然歩道に合流します。案内板をたよりに古くから信仰された二上山(にじょうさん)のふもとを歩いていくと、目的の「傘堂」に到着します。その傘堂の写真がこちらです。

雰囲気のある一本足の傘堂

 たしかに傘のような構造! もう一本細い柱もさりげなくついていますが、中心の一本の柱で宝形造(ほうぎょうづくり)の屋根の大半を支えています。見た瞬間、こんな妖怪がいたなと思ってしまいました。お化け屋敷やお化けが出るといわくつきの建築はあっても、妖怪にたとえたくなる建物となるとあんまりないと思います。

 

 この建物、延宝2年(1674)にこの土地を領していた藩主の菩提を弔うために家臣たちが建てたことがわかっています。元々は位牌堂のような意味合いで建てられたらしく、阿弥陀如来も安置されていたそうです。最初、どこに安置していたんだろうと思ったんですが、よく見たら柱の上部に神棚のような部分があったので、おそらくそこに小さな仏像を祀っていたのでしょう。

柱の上に神棚のようなものが

 現在では仏様も祀られていませんし、お寺の境内にあるわけでもありません(由緒ある神社境内の真横にはありますが……)。なので仏教に関する建築でも神道に関する建築でもないので寺社には当てはまらないはずなんですが――沿革からしても限りなく仏教建築に近いものです。

 

 ちなみに、実は似た建築を所有している寺院が同じ奈良県にあります。天理市の長岳寺の五智堂(ごちどう)がそれで、こちらも壁に当たるものがなく、中心の太い柱が屋根を支えています。ただ、五智堂のほうは四隅も柱が建っているので、目にした時の印象は大幅に異なります。端的に言うと、五智堂はすごく安定感があって、「普通の建物」に感じます。一方で、傘堂はかわいいお化けのようなところがあります。菩提を弔うために建てられたものをお化けにたとえるのはどうかと思いますが……わざわざ見に行ってよかったと思える素晴らしい建築です。

 

こちらが長岳寺の五智堂

 

 

 

 

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森田季節もりたきせつ

1984 年生まれ、兵庫県出身。作家。東北芸術工科大学特別講師。京都大学文学部卒業、京都大学大学院文学研究科修士課程中退(日本史学専修)。大学院在学中の2008年、『ベネズエラ・ビター・マイ・スウィート』で第4回MF文庫Jライトノベル新人賞優秀賞を受賞してデビュー。主な著書に『スライム倒して300年、知らないうちにレベルMAXになってました』(GAノベル)、『物理的に孤立している俺の高校生活』(ガガガ文庫)、『ウタカイ 異能短歌遊戯』(ハヤカワ文庫)などがある。

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