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大坂遊女の「濃厚接客」に惑わされた客たち 男に嫉妬させて弄ぶ「手練手管」とは?

炎上とスキャンダルの歴史


■吉原だけじゃない! 大坂・新町遊郭の遊女たち

 

 大坂にあった新町遊廓は、太平洋戦争当時の空襲によって跡形もなく消失しており、江戸・吉原や京都・島原に比べ、知名度が高くないかもしれません。しかし、ほかの二つの遊郭が閑古鳥だった時期も、新町遊廓だけは大坂都心部にあるというアクセスのしやすさ、建物の豪華さなどが理由で高い人気を保ち続けた特筆すべき色街でした。

 

 そんな新町遊廓のもう一つの特色は、遊女が率直だったということです。『難波鉦(なにわどら)』という17世紀後半の新町遊郭にまつわる遊女評判記には、粋な客だと思われるためのアドバイスなど興味深いトピックが見られるのですが、中でも興味深いのは新町遊女の「手練手管(てれんてくだ)」についてです。

 

 「手練手管」とは客を本気で惚れさせるための遊女のハウトゥなのですが、もっとも効果的だと考えられていたのは、客に嫉妬させること。

 

 たとえば『難波鉦』には金持ちの商人の息子という馴染み客から本気で好かれるために、新町の遊女・高橋太夫が行った驚愕の言動が記されています。それはあえて彼の前で「別のお客さんに手紙を書かないと」「あの男をホレさせてやるわ!」などと商売女丸出しの態度を取ることなのでした。

 

 わざわざ高いお金を払って、好きな女に会いに来た男が、もっとも幻滅する瞬間をわざと作り出すのです。客を怒らせたり、嫉妬で燃え上がるようなことをする――つまり、痴話喧嘩となるようなシチュエーションを人為的に作り出すのが遊女たちの最高の「手練手管」だったのです。

 

 客が怒り出すと、遊女はとつぜん素直になって、客の罵倒を受け止めます。そしてその後は仲直りの印としてベッドインならぬお布団イン……。このとき、いっそう情熱的に乱れて見せるのがポイント。こういう仲直りエッチこそが、男の心を掴む時短テクなのです。

 

 新町の遊女たちは、言動から透けて見える客の経済状態でも接客法を変えました。金持ちの男ほど、ぞんざいに扱われることを好むものなのだそうですよ。

 

 『難波鉦』いわく、金持ち相手には「わざと自堕落に、物事に慇懃せず」――大胆かつ空気を読まないほうが喜ばれたそうな。金持ちは遊女がワガママで奔放なほうが喜ぶのですが、貧乏な男ほど「遊女なのに、オレにだけは一途」などという“特別扱い”されるのを喜ぶのだとか……。まことにエグい人心掌握術ですね。

イメージ/イラストAC

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堀江宏樹ほりえひろき

作家・歴史エッセイスト。日本文藝家協会正会員。早稲田大学第一文学部フランス文学科卒業。 日本・世界を問わず歴史のおもしろさを拾い上げる作風で幅広いファン層をもつ。最新刊は『日本史 不適切にもほどがある話』(三笠書房)、近著に『偉人の年収』(イースト・プレス)、『本当は怖い江戸徳川史』(三笠書房)、『こじらせ文学史』(ABCアーク)、原案・監修のマンガに『ラ・マキユーズ ~ヴェルサイユの化粧師~』 (KADOKAWA)など。

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