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朝ドラ『あんぱん』「国防婦人会」とは何か? 「母性愛」で皇軍将兵と国に尽くすという高揚感の不気味さ

朝ドラ『あんぱん』外伝no.31


NHK朝の連続テレビ小説『あんぱん』、第9週は「絶望の隣は希望」が放送中だ。昭和15年(1940)、朝田のぶ(演:今田美桜)が勤める小学校を訪れた陸軍中佐から、朝田パンに乾パンの依頼が入った。しかし、屋村草吉(演:阿部サダヲ)が乗り気でないことからそれを断ろうとすると、羽多子(演:江口のりこ)は国防婦人会の面々から詰め寄られるのだった。今日の放送でクローズアップされた国防婦人会とは、どういう組織だったのか、そしてなぜあれほど強硬なのかを解説する。


 

■皇軍将兵の後顧の憂いを除いてお国のために働くべし

 

「國防婦󠄁人會(国防婦人会)」とは、一般の主婦らで構成される婦人団体である。トレードマークは割烹着にたすき掛けで、「国防は台所から」というスローガンを掲げていた。彼女たちの仕事は、出征する兵士の見送りや残された家族の生活のサポート、傷病兵や遺骨の出迎え、慰問袋(戦地の兵士へ雑貨等を詰めて送る袋)の作成と発送、陸軍病院などでの洗濯といった奉仕活動などである。

 

 昭和12年(1937)に出された『赤心』という書籍には次のようにある。

 

 趣意:國防は國力の總和を以て挙国之に當るべく、男子のみに委するべきものにあらずとなし、平戦両時に於ける我が國婦人の責務愈々重大なるに鑑み、世界に比なき日本傳統の婦徳を以て國防の礎となり銃後の力とならんとするにあり。

 

 そして同書にはその仕事として「心身ともに健全に子女を養育して護国の任を遂行すること」や「兵役に服する夫や子、兄弟に後顧の憂いがないように家庭を整えること」、「皇軍将兵や傷痍軍人、戦病死者遺族に対して母性愛をもって慰恤の誠を致すこと」などが記載されている。

 

 そもそも国防婦人会の始まりは、昭和7年(1932)まで遡る。昭和6年(1931)に満州事変、そして昭和7年(1932)に上海事変が勃発すると、大阪港付近に暮らす主婦らが協力し、出征兵士や、召集に従って帰郷する若者らを茶などでもてなしたことが原点となっている。そうして発足した「大阪国防婦人会」は、やがてそれに目をつけた軍に活動を後押しされるようになり、愛国婦人会、大日本連合婦人会等と統合されて「大日本国防婦人会」として全国に拡大した。

 

 女性たちにとっては、社会的権利がないなかで、自身が社会に出て仲間と共に何事かを成し遂げるというのは新鮮で有意義なものだった。「生まれては親に、嫁しては夫に、老いては子に従え」が当然だった時代、女性が主体となって活動するということにおいて、やりがいを感じる女性も多くいたそうだ。その点でいえば、国防婦人会がある種の「女性解放」という側面を持っていたことも否めない。

 

 これを踏まえると、朝田家を訪れる近所のご婦人方が積極的に活動し、達成感のようなものさえ滲ませているのも頷ける。彼女たちにとっては「今こそ女性がお国のために働くとき」という高揚感のなかで、朝田家が異質なものに見えるのも仕方ないことだろう。もしくは石屋を継ぐはずだった豪が戦死し、嗜好品でしかないあんぱんを売り続ける朝田家を純粋に案じる気持ちもあったかもしれない。

 

 一方で、そうした女性たちの想いは利用されていた。軍にしてみれば、家事・育児をしながら銃後の戦争協力としての活動をしてくれるのは都合が良かったのだ。昭和12年(1937)の日中戦争開戦以降、徐々に男手が減っていったからである。

 

 同時に、婦人会を利用して女性たちに「心身ともに強い子を育て、兵士として送り出すのが母親のあるべき姿」、「お国のために命を懸けるのは名誉なことである」といったことを植え付け、反戦や国体批判といった考えを持たせないよう、思想統制をしたいという思惑もあったと考えられている。

 

 やがて女性たちは夫や息子に赤紙が届けば喜んでみせ、「おめでとうございます」という言葉を言ったり受け取ったりし、そして戦死の知らせが届いても人前では涙も見せられないような苦しい日々をおくることになるのである。

靖国神社を参拝する会員たち。 『靖國神社臨時大祭記念寫真帖 : 昭和十三年十月』より

<参考>

■長谷正夫『赤心』
■大日本国防婦人会神戸地方本部『大日本国防婦人会神戸地方本部十年画史』

※いずれも国立国会図書館蔵

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歴史人編集部れきしじんへんしゅうぶ

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