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朝ドラ『あんぱん』史実でも戸籍から家族が消えて絶望… 書類上は1人ぼっちだったやなせたかし氏の孤独

朝ドラ『あんぱん』外伝no.14


NHK朝の連続テレビ小説『あんぱん』、第4週は「なにをして生きるのか」が放送中だ。いよいよ女子師範学校の受験日を迎えた朝田のぶ(演:今田美桜)。一方嵩(演:北村匠海)も高知第一高等学校への受験に臨もうとしていたが、母・登美子(演:松嶋菜々子)が神棚に受験票を置いていたせいで忘れていってしまう。のぶは自分の受験があるにも関わらず、嵩の元へ全速力で駆けていき、受験票を届けた後に自分の受験会場に駆け込んでいった。さて、この受験に際して、史実でもやなせたかし氏が突き付けられた「戸籍」問題があった。


 

■思春期に入った自分の感情を持て余して危険な行いをしてしまう

 

 嵩さんは小学校を首席で卒業すると、高知県立高知城東中学校(現在の高知県立高知追手前高校)に進学した。この学校には縁があり、前身である高知県立第一中学校時代には、父・清さんと伯父・寛さんも通っていた。そして、後に弟の千尋さんも同じ中学校に通うことになる。

 

 小学校時代は成績優秀だったが、中学に入ると嵩さんの成績は急降下した。とはいえ、田舎では尋常小学校を卒業したら学歴はそこでおしまい、というパターンも多かったなかで旧制中学校に進むのなら、ある程度優秀で恵まれた環境の生徒が揃うのは必然的なことだ。しかも、嵩さんの成績はそれでも200人中7080番くらいだったというから、取り立てて落ちこぼれというわけではなかった。

 

 当時密かに漫画家、もしくは雑誌の挿絵画家や小説家といった道に進みたいと思っていた嵩さんだが、それを言えるはずもなかった。進路を心配した伯父の寛さんは「医者になるつもりはないか? もしあるのなら、この医院を嵩に譲ってもいいと考えてるんだが」と助け船を出したらしい。しかし、嵩さんは数学が苦手で、零点に近い点数をとったこともあった。そのため「すみません、僕は医者にはなりません」と返事をするしかなかったという。もちろん、寛さんも「それなら仕方ない」と受け入れた。

 

 結局、嵩さんは高知高等学校(現在の高知大学)を受験することにした。旧制中学校は5年制だが、当時は4年修了した時点で受験することもでき、同じ中学でも優秀な生徒はその道をいくことも多かった。

 

 そして受験のために戸籍謄本を取り寄せたとき、嵩さんは自分の境遇を改めて突き付けられることになった。父・清さんは病没、母・登喜子さんは再婚、そして弟・千尋さんはとっくの昔に寛さん夫妻の養子に入っており、戸籍から外れたことを意味する大きなバツ印がついていたのだ。嵩さんは寛さん夫妻の正式な養子ではなかったため、戸籍上は1人ぼっちだった。

 

 もちろん、寛さんも妻・キミさんも千尋さんと差別することなく嵩さんに愛情を注いで育ててくれていたのだが、やはり嵩さんの心にはどうしようもできない寂しさや家族がバラバラになってしまったことへの孤独感がずっと居座っていたのである。

イメージ/イラストAC

<参考>

■梯 久美子『やなせたかしの生涯 アンパンマンとぼく』(文春文庫)

■門田隆将『慟哭の海峡』(角川書店)

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歴史人編集部れきしじんへんしゅうぶ

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