蔦重に恋する「かをり」は将来有望な花魁候補? 「振袖新造」とはどのような存在か【大河ドラマ『べらぼう』】
NHK大河ドラマ『べらぼう〜蔦重栄華乃夢噺〜』の第7回「好機到来『籬(まがき)の花』」では、“2倍売れる”『吉原細見』のネタに頭を悩ます蔦屋重三郎(演:横浜流星)の元にかをり(演:稲垣来泉)が駆け寄ってくる。「わっちと蔦重は前世からの縁」と好意を隠さない天真爛漫な女郎だが、彼女は一体何者なのだろうか?
■大事に教育された「振袖新造」と早々に客をとらされた「留袖新造」
かをりは新興勢力である中見世「大文字屋」に所属する女郎である。ちなみに大文字屋の主人が大文字屋市兵衛(演:伊藤淳史)だ。7話では蔦重が「吉原細見を倍売ったら地本問屋の仲間入りができ、吉原を市中で売り込める」と力説した際、真っ先に「張ったあ!」と乗り気になった人物だ。
さて、かをりは大文字屋の「振袖新造」であるという。この振袖新造とは、端的に言えば「将来性を見込まれた花魁候補である見習い」である。
少女たちが買われて(あるいは騙されて)妓楼にやってくると、まずは「禿(かむろ)」となる。大体7~8歳頃だ。少女たちは禿として上級遊女のもとにつき、身の回りの世話や雑用をこなしながら、吉原のしきたりや遊女としての立ち居振る舞い学ぶ、そして様々な稽古事をこなすのである。
15歳前後になると、禿は「新造」となる。禿のなかでもとくに容姿や教養、稽古事の面で秀でた少女(「引き込み禿」という)は将来有望とされ、「振袖新造」となった。これは妓楼にとっては近い将来見世を背負う看板遊女ということになる。そのため、禿卒業を祝って「新造出し」という盛大なお披露目を行った。
そして、振袖新造は花魁見習いとして本格的な修行・教育期間に入る。先輩の花魁のもとで客へのあしらいや手練手管のすべてを仕込まれ、花魁が他の客の相手をしている間に名代として客の話し相手や添い寝をすることもあった。ただし、この時客が手を出すのは厳しく禁じられていた。
一方で、それほど将来性が期待されなかった禿や、禿の経験がない(おおよそ10歳以上で見世に来た場合など)少女については「留袖新造」となる。振袖新造同様に先輩の遊女について教育を受けるものの、こちらはそれと平行して早々に客をとらされることになった。また、大見世の場合、原則として留袖新造は花魁と呼ばれる上級遊女にはなれなかった。
つまり、かをりは大文字屋が将来性を期待して大事に教育している花魁見習いなのである。その上、新進気鋭の中見世である大文字屋にとって、この先の見世の成長を左右する重要な存在でもあった。そもそも遊女と吉原の男衆の恋愛はご法度だが、そんな期待を背負った花魁候補が昼間に堂々と蔦重に愛を囁いているのは外聞が悪い……ということで、大文字屋の遣手である志げ(演:山村紅葉)が仕置き棒を片手に追いかけてきた、というわけだ。
かをりは既に後々吉原を代表する花魁「誰袖」(演:福原遥)に成長することが明かされている。天真爛漫で一途に蔦重を想う少女の恋心の行く末はどうなるのだろうか。

新造としてのお披露目をする「新造出し」は妓楼と姐さん女郎にとっても重要な行事だった。
青楼絵抄年中行事 上之巻/国立国会図書館蔵
<参考>
安藤優一郎『江戸の色町 遊女と吉原の歴史 江戸文化から見た吉原と遊女の生活』(カンゼン)