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人目を忍んで密会し、物陰でこっそりと…… 遊女と「間夫」の危険な恋愛【大河ドラマ『べらぼう』】


大河ドラマ『べらぼう』の6回「鱗剥がれた『節用集』」では、松葉屋の遊女・うつせみ(演:小野花梨)が蔦屋重三郎(演:横浜流星)に頼んで浪人・小田新之助(演:井之脇 海)に文を出し、「花代は自分がもつから会いに来てほしい」と恋心を滲ませる場面があった。毎日多くの客を相手にする遊女に恋愛はご法度だったが、“暗黙の了解”のような相手がいることもあったようだ。今回はそんな危ない恋愛模様についてひも解いていく。


 

■妓楼が厳しく監視していた「間夫」

 

 うつせみは、花の井たちと同じ「松葉屋」に所属している遊女で、座敷持ちというそれなりに高位の遊女である。そんな彼女が新之助に対して出したのは「天紅の文」で、端に紅で色をつけた用紙を使った手紙だ。遊女たちは馴染みの客にこの天紅の文をよく送っていた。

 

 手紙には「揚代のことはきにしないでいいから」と綴られていた。つまりうつせみは、本来新之助が払うべき揚代を自分が肩代わりするから、会いに来てほしい」と願ったのである。新之助に心から惚れているうつせみだが、このように遊女が本気で惚れた恋人のことを「間夫(まぶ)」や「情夫(じょうふ/いろ)」といった。

 

 吉原の遊女のもとに通うにはとにかく金がかかる。遊女が惚れた相手が金持ちで、そのまま身請けまでしてくれれば何も言うことないが、身請けするためにも驚くほどの金がかかる。実際に身請けされるのは、美貌と教養を兼ね備えた一握りの遊女だけだった。

 

 では、恋しい相手に会うために遊女たちがどうしたかというと、うつせみのように自分で揚代を払って間夫を呼んだのである。遊女が自分の揚代を払うことを「身揚がり」といい、間夫の肩代わりだけでなく、定められた休日(ほとんどないが)以外でどうしても休みが必要な時にも適用された。ただし、これは妓楼への借金が膨れ上がるだけなので、遊女側も気軽にできることではないし、妓楼としてもそうそう認められるものではなかった。

 

 ではそれさえ難しい時はどうだったかというと、1日のうちで遊女たちに与えられたわずかな自由時間に密会するしかなかった。人目につかないように裏茶屋などを活用したほか、使われていない物置や人気のない物陰で束の間の逢瀬を楽しんだという。

 

 間夫の存在は、妓楼にとっては大きなリスクだ。万が一にも足抜け(脱走)や心中を図られては困る。ただの気分転換や年季明けまでの仕事へのモチベーションになるならよいが、なかには間夫に溺れて客をとりたがらない遊女もおり、妓楼は怪しい相手がいれば警戒した。場合によっては、例え遊女が身揚がりしても相手の男の登楼を認めないこともあったという。

 

 さて、うつせみと新之助は互いに相手を想いあっているが、2人の純真な恋はどのような結末を迎えるのだろうか。

文を書く遊女。自由時間には馴染みの客に登楼を促す文を書いた。
鳥文斎栄之画「青楼美人六花仙 扇屋花扇」/メトロポリタン美術館蔵

<参考>

安藤優一郎『江戸の色町 遊女と吉原の歴史  江戸文化から見た吉原と遊女の生活』(カンゼン)

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歴史人編集部れきしじんへんしゅうぶ

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