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迫り来る世界戦争の足音がヒシヒシと感じられる内容が増加、そしてついに第二次世界大戦開戦へ!

国民に大きな影響力を発揮した雑誌『写真週報』から読み解く戦時下【第6回】


昭和16年(1941)の夏も終わり、いよいよ未曾有の戦争が始まろうとしている直前、一体どれほどの日本人がそれに気づいていたであろうか。それでも『写真週報』の記事を追うと、それなりに緊張感が伝わってきた。


優雅に大空を滑空するグライダーの「マイゼ号」。茨城県石岡にあった、石岡中央滑空訓練所での訓練飛行を撮影したものだ。

『写真週報』の昭和16年9月17日号は、表紙にグライダーを掲載。丸ごと航空機が特集されている。というのも、当時は9月20日が航空日とされていたからだ。小見出しに「九月二十日には第二回目の航空日がくる」とあり、文中には「一億國民が一人残らず日本の空をみなほし、空へ起ちあがる決意を新しくしなければならない日だ(原文ママ)」とある。

 

 巻頭のグラビアでは、重慶爆撃を行なっている日本の爆撃機隊が見開きで紹介されている。まさに爆弾が投下された瞬間という、決定的瞬間だ。これを見た読者は、日本軍の勇ましさや強さに酔いしれたであろう。

 

 続いての特集は「ドイツの模型グライダー その作り方 飛ばせ方」だ。5ページにわたり、ドイツから来日したナチス飛行団「ローテンベルク国立模型航空学校主任教官」カール・ニート氏が、日本の青少年にドイツの少国民型グライダー模型の作り方や飛ばし方を伝授している様子が紹介されている。別ページにはグライダーの設計図も掲載。青少年に向かい、その設計図を見て自分で製作することを勧めている。この週刊誌は、教育的な観点に立った記事も多かったのだ。まだこの時点では、平和な空気感は残されている。

1941年6月22日に始まった独ソ戦は、半年で決着をつけるつもりだったドイツの予測を裏切り、ソ連軍の頑強な抵抗に手を焼いていた。そんな真実が伝えられている。

 10月8日号の海外ニュースは、熾烈を極める独ソ戦のレニングラード攻防戦と、アメリカの近況を伝えている。独ソ戦は単にドイツの快進撃を伝えるのではなく、ソ連軍が予想外の抵抗を見せている状況を、きちんと伝えているのだ。アメリカのニュースは、軍需工場のストライキや靴下の買いだめに殺到するヤンキー娘の姿などといった日常的なものに加え、航空兵募集などにも触れている。

現役の軍人であった東条英機に組閣の大命が下った。陸軍の強硬派でなくても、すぐさま米英と戦争になる、と考えたであろう。

 1029日号になると、緊迫したムードが漂い始める。この号の表紙は、首相となった東条英機(とうじょうひでき)のポートレート。記事も総扉は昭和天皇の靖国神社行幸、それに次ぐ見開きは、組閣されたばかりの東条内閣閣僚のプロフィールを、顔写真入りで紹介したもの。

 

 記事は写真が少なくなり、その分を戦時経済に関する読み物が埋めている。また看護婦になるための専門学校生による演習風景や、経済統制法を守るための取り組みを紹介するなど、平時とは異なる雰囲気に包まれている。

 

 何といっても表4が「一億が債券買って総進軍」という、国債購入を促す大蔵省の広告なのが象徴している。しかも絵も写真もない文字だけのもの。どことなく暗い時代がやって来た、そんな空気を感じさせる。

戦争とは無縁のタイトルとは裏腹に、いざという時には女性も機械化部隊の一員として奉公するため、自転車部隊を結成したことを知らせる記事。

 そして1210日号は、軍事訓練中の東京帝国大学の学生が表紙になっている。巻頭の特集も東京帝国大学での軍事教練を紹介したもの。それに続くページでは、京都高苑女学校が銀輪部隊を結成した記事となっている。タイトルは「青春をペダルに踏んで」。それだけ見ると、ほのぼのとした内容のようだが、実際は自転車で体力を向上すること、いざという時には機械化部隊の一環として、女学生も働くことを促している。

 

 1210日という日付だけ見れば、すでに米英と戦端を開いているが、雑誌の日付は前倒しなので、まさに開戦直前の記事。それがわかって読むと、物悲しさを感じてしまう。

幕末の頃、異国船を打ち払おうとした長州藩の砲台が、欧米の連合艦隊に砲撃された。今こそその時の仇をとる時、という勇ましい解説が付いている表紙写真。

 そして1217日号は、米英との開戦を知らせる号となった。表紙は訓練時のものと思われるが、開戦を想起させる効果十分の写真である。表2では米英に宣戦を布告したことを高らかにうたいあげ、総扉は作戦中の山本五十六(やまもといそろく)連合艦隊司令長官の横顔である。いよいよ日本は、後に引けない大戦争に突入したのであるが、どの記事からも悲壮感などはなく、高揚感に包まれている。

ついに米英との開戦を知らせることとなった写真週報。この後、記事の内容は戦争遂行を促すもので埋め尽くされるのであろう。

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野田 伊豆守のだ いずのかみ

1960年生まれ、東京都出身。日本大学藝術学部卒業後、出版社勤務を経てフリーライター・フリー編集者に。歴史、旅行、鉄道、アウトドアなどの分野を中心に雑誌、書籍で活躍。主な著書に、『語り継ぎたい戦争の真実 太平洋戦争のすべて』(サンエイ新書)、『旧街道を歩く』(交通新聞社)、『各駅停車の旅』(交通タイムス社)など。最新刊は『蒸気機関車大図鑑』(小学館)。

 

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