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石山本願寺攻め1570〜80年<その4>~新兵器・鉄甲船で毛利水軍を撃破し 補給を絶つ!

戦国武将の城攻め【解体新書】#008

本願寺勢の真の実力と慢心を見極めた信長

鉄甲船CG

当時の常識を超えた攻守を誇る鉄甲船CG/成瀬京司

 塙勢の敗報が届くや信長は、それが各地の反織田勢力に何らかの影響を及ぼす前に動くことにした。実は信長は、それだけ危うい状況にあった。現に荒木村重などは、信長の命に従わず、傍観者のような態度を取り続けている。つまり大勢を見守り、自らの身の振り方を決めようと思っている与党が、この頃の織田方には多くいたのである。

 

 ここで信長は、わずか3000の兵で天王寺の陣城の救援に向かう。しかも包囲陣を外側から攻撃するのではなく、自ら3000の兵と共に陣城に入るのである。本願寺方は1万5000もおり、包囲されてしまえば信長の命さえ保証の限りではない。

 

 さらに信長は、包囲陣を内側から突き破るというセオリー無視の戦いを挑む。こうした事態を全く予想していなかった本願寺方は呆気なく敗走し、惨敗を喫する。

 

 一見、無謀に過ぎ、勝利は結果論のように思えるが、信長には、勝算があったはずである。

 

 つまり本願寺方は烏合の衆であり、軍事訓練もさほどなされておらず、敗勢に陥れば、一気に崩すことができると。

 

 さらに堅固な本城が近くにある軍勢というのは、それに頼りすぎる一面がある。つまり城内に逃げ込めば、命は助かるという思いから、心理的に腰が引けているのである。

 

 おまけに本願寺方は、予想外の大勝利に慢心している。

 

 これらの諸要素を勘案した信長は、全軍で錐もみのように敵の包囲陣の一角を崩せば、敵は一気に崩れ立つと予想した。 そしてそれは、物の見事に的中し、敵の包囲陣は瞬く間に崩壊した。

 

 つまり「兵力を一点に集中する」「敵の意表を突く」「敵の心理状態を読む」ことで、信長は圧倒的劣勢を挽回し、奇跡的な逆転勝利をものにしたのである。

 

(続く)

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伊東 潤(いとう じゅん)
伊東 潤いとう じゅん

1960年生まれ。2012年『城を嚙ませた男』13年『国を蹴った男』で直木賞候補。『黒南風の海』で「本屋が選ぶ時代小説大賞2011」を受賞。著作に『叛鬼』『義烈千秋』『武田家滅亡』『戦国鬼譚 惨』など。利休の内面と死の真実挑んだ最新刊「茶聖」(幻冬舎)が2020年2月20日発売!

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