NHK『大奥』時代考証の河合敦先生が語る、歴史を好きになったきっかけとその魅力とは?
歴史への道
歴史を愛し生業とする“歴史のプロ”たちが、その道に進んだきっかけや歴史の醍醐味を語る連載「歴史への道」。今回は、大学で教鞭をとりながら歴史作家として数々の著作を発表し、NHK『歴史探偵』など多くのメディアでも活躍中の河合敦先生に聞きました!
■金八先生に導かれた、教員への道
――あらゆる媒体を通じて歴史の“楽しさ”を教えてくれる河合先生ですが、ご自身はどうして歴史に興味を持ったのでしょうか?
河合先生 小学生のとき、自宅の裏の畑で縄文土器や石器などを見つけたんです。教科書に載る数千年前の道具が身近にあることに感動を覚え、それが歴史に興味を持ったきっかけですね。
――ご自宅の裏に縄文土器が!それはなかなかレアなパターンなのでは…。
河合先生 ただ、「歴史を研究したい」と思ったのは高校時代になってからです。中学生のとき、TBSのテレビドラマ『3年B組金八先生』を見て学校の先生になろうと決意し、高校時代に金八先生のあこがれの坂本龍馬を主人公にした司馬遼太郎の『竜馬がゆく』を読んで、歴史を学んで日本史の教員になろうと思いました。
――なるほど、歴史との本格的な出会いは金八先生がきっかけだったのですね。実際に歴史の道に進んでみて、「楽しい」と感じるのはどんなところでしょうか?
河合先生 これまで常識と思われていたことが、最新の研究や新たな発掘成果などによって、どんどんとくつがえっていくところですね。「歴史は変わらない」というイメージがありますが、じつはどんどんと“進化”していく、それが面白いと感じます。
――過去の出来事であるはずの歴史が、どんどん“進化”していく…。たしかに、不思議で面白いですね!

日本史の教員を志すきっかけとなった坂本龍馬
■“進化”し続ける歴史の魅力
河合先生 ほかにも、論文を書くためには、どうしても一次史料にあたる必要がありますよね。私も苦手な崩し字を四苦八苦しつつ読み解いていますが、どうしても読めない字が出てきます。その文字が、後日、急にひらめいて解読できるようになった瞬間は楽しいです。
――河合先生でも、崩し字の解読には苦労されるのですね…!ほかにも、歴史を研究するうえで大変なことはありますか?
河合先生 いわゆる学術的な歴史研究はもう10年近くしていないので、そう言った意味では苦労はありません。ただ、歴史作家として史実にもとづいた一般向けの啓蒙書を書いています。最近は研究の細分化が進み、狭い範囲でもいろいろな新説が登場しているんです。
――先ほど言っていた、「どんどん“進化”していく」ということですね…。
河合先生 そうです。たとえば、私は日露戦争の研究をしていましたが、そのなかの農村における銃後活動をテーマに修士論文を書きました。そんな狭い分野でも、それから20年近くたって、さまざまな新説が登場しています。執筆依頼が多い戦国時代や江戸時代でも、とにかく最新の論文にできるだけ多く目を通すようにしていますが、数年前の論説が時代遅れになっていることも少なくなく、なかなか新常識についていくのが大変です…(笑)それに、最新の論文のうち、どれが今後有力になっていくのかを予測するのも一苦労です。
――それだけのスピード感の中で、「どれが今後有力になっていくのか」まで考えるのは、たしかに大変そうです…!そのように多くの論文に触れる中で、先生が今特に注目している歴史トピックはありますか?
河合先生 NHKドラマ10『大奥』Season2の時代考証を担当し、最新の大奥の文献を多く読みました。奥女中法度などにより、大奥の内部のことは他言禁止なので、研究があまり進んでいませんでしたが、近年は地方文書などから研究が進展しているので、近い将来、大奥のイメージがかなり変わるのではないかと楽しみにしています。
――大奥は本当に秘密の場所だったんですね…!大奥のイメージも“進化”する。私も楽しみです!
河合先生 また、来年のNHK大河ドラマ『光る君へ』は、平安時代の貴族社会を取りあげますよね。昨年の『鎌倉殿の13人』も同様ですが、戦国、江戸、幕末以外の時代にスポットがあたることは、歴史ファンが多く増えてくれるので嬉しいですね。
――たしかに、今後ますます平安時代のファンも増えそうですね! では最後に一言、河合先生にとって「歴史」とは?
河合先生 「温故知新」。人生をより良く生きるための教訓です!
――時代とともに“進化”する歴史は、今後もたくさんの教訓を私たちに与えてくれるはずですね。河合先生、ありがとうございました!