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さまざまな姿で語られる「鬼」─神として悪鬼として─

今月の歴史人 Part.2


日本の歴史なかで、鬼たちはさまざまな形で幾度となく人の前に現れてきた。


 

■民話に登場する多様な鬼と災厄をもたらし畏怖された鬼

 

鬼が一晩で積み上げた石段(大分県熊野神社)
人の肉を食べたいと鬼が権現に願うと、夜明けまでに100段を積み上げるよう命じられた。99段積み上げたところで、権現が鶏の鳴き真似をして鬼を追い払ったという。

 

「鬼」というと、私たちは民話(昔話)の登場人物の鬼を思い浮かべることが多い。鬼とは山奥や離れ島に暮らす、異様な姿をした生き物だとされる。

 

 鬼の中には桃太郎の物語や一寸法師の話の鬼のように、人里に出てきて乱暴をする者もいる。このような鬼は、勇敢な人間に退治される。それとは別にコブとり爺さんの鬼のように、不思議な力で気に入った人間を助ける鬼もいる。

 

 また、知恵のある人間が上手く鬼を騙したりして、その力を利用する話もある。九州には、住民が鬼に造らせたと伝えられる石段が幾つか見られる。

 

 民話(昔話)に出て来るような鬼は、さまざまな要素が合わさってつくられた。しかし、もっとも古い形の鬼は、自然をつかさどる力の恐ろしさを人々に教えるものであった。

 

 山や海の自然を支配する力が、ある時は「神」、ある時は「鬼」と呼ばれた。天災が鬼のしわざとされたのだ。「おに」という古代語は、目に見えないものを表す。

 

■陰陽道や地獄図の「悪い鬼」から利益をもたらす「神としての鬼」へ

 

 ついで陰陽道の悪い方向や時間帯がもたらす災厄が、鬼によるものとされた。凶となる日には百鬼夜行が現れ、悪い方向である東北の凶位は、鬼が来る鬼門とされた。

 

 そして平安時代末あたりから、日本で鬼は仏教の地獄図の獄卒の恐ろしい姿をしていると考えられるようになった。現在見られる角を生やし牙をむき出した鬼の面は、地獄の獄卒の顔を温和にしたものである。

 

 獄卒は吊り上がった恐ろしい目をしているが、節分などの鬼の面の鬼は、人の良い丸い目をもっている。陰陽道の法則にもとづく災厄や地獄の獄卒は、本来は人の力の及ばないものであった。ところがやがて、上手に付き合うと鬼は人に利益をもたらすとされるようになったのだ。

 

 このような鬼の性格の転換は、ある種の先祖返りだと評価できる。陰陽五行説や仏教の地獄・極楽の考えにふれる前の鬼は、自然の恵みをもたらす神として祀られていた。

 

 人々は鬼を恐れ、その怒りに触れないように山や海の自然を大切にした。かれらは山や森の樹々を保護し、動物や魚を獲りすぎないように努めた。鬼を自然界の神とする発想は、今でも男鹿半島のなまはげや奥三河の花祭の行事に残っている。

 

監修・文/武光誠

歴史人2023年6月号「鬼と呪術の日本史」より

 

 

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