「歴史を伝える城」「集う城」へと生まれ変わった岡山城の魅力に迫る!─岡山の中心であり続けた城─
漆黒の姿が戦国の薫りを感じさせ「烏城」の異称で知られる岡山城
漆黒の姿が戦国の薫りを感じさせ「烏城」の異称で知られる岡山城──。威厳のある佇まいで戦国・江戸を乗り越えた歴史を残しつつ、「歴史を伝える城」「集う城」へと生まれ変わった岡山城の魅力に迫る!
監修/小和田哲男、文/上永哲矢
■備前の象徴として輝く旭川の水面に映える巨城

岡山城
宇喜多直家(うきたなおいえ)が城館を構え、豊臣政権の五大老となった秀家が大城郭を築城。その後も小早川氏、岡山藩主・池田氏の手で近世城郭に発展した岡山城。当時の天守は昭和20年(1945)の岡山空襲で焼失したが、その後に再建された三層六階建ての建物は岡山のシンボルとして親しまれる。烏城(うじょう)、金烏城(きんうじょう)とも呼ばれるとおり、金箔瓦や鯱(しゃちほこ)が映える下見板張りの黒い外観の天守。姫路城(兵庫県)などの“白亜の城”と対照的な美しさがある。
この岡山城天守が2022年11月、令和の大改修を終え、外観はより美しく、展示施設のある内部はより充実した展示および機能をもつ観光名所に生まれ変わった。
天守の最上階の6階から眺める城下の風景はまさに大名気分だ。そして2階から5階は歴史ミュージアム。宇喜多直家・秀家親子から池田氏までの歴史が岡山城の発展とともに丁寧に解説されている。秀家や徳川家康の書状、小早川秀秋(こばやかわひであき)の『知行方目録(ちぎょうかたもくろく)』、江戸時代の刀剣や甲冑といった本格的な史資料が並び、豊富な解説パネルとともに観られる。展示監修は岡山市出身の歴史学者・磯田道史(いそだみちふみ)氏が担当。本人による歴史解説も巨大スクリーンで観ることが可能だ。また天守地下1階にはお土産ショップ、1階にはカフェスペースもあって一休みできるのもいい。天守を丸ごとパーティーや懇親会などに夜間貸出も行っていて好評を博している。

不明門
藩主の御殿がある、限られた者しか入れない本段への入り口となっていた。現在の門は昭和41年に外観復元されたものである。
夕方以降は、ライトアップした天守の姿を観ておきたい。とくに旭川の水面に天守および、ライトに照らされた樹々が映り込む様子は幽玄そのもので、いつまでも眺めていたくなる。
もちろん岡山城の魅力は天守だけではない。たとえば天守台は宇喜多秀家が慶長2年(1597)までに築きあげたもので高さ14・9mにもなり、近世城郭としての魅力を十二分に宿す。本丸入口周辺の高さ4mほどもある巨石などは迫力満点だ。1620年代に池田忠雄(いけだただお)が築いた月見櫓(国の重要文化財)は3階建ての重厚な造り。石落としや銃眼石を備えた当時の軍備施設がそのまま残っていて、これだけでも見応えがある。

月見櫓
1620年代に建てられたものが今も残る。戦闘施設としての役割もあるが、月見をはじめ四季の眺望を味わえ、宴などが催されたという。
城内にある備前焼工房での「土ひねり体験」など、さまざまな企画で愉しませてくれる岡山城。2度、3度と訪れたくなる歴史名所として注目を集めている。
【岡山城の見どころ】

岡山城
天守以外にも当時の薫りを残す見どころが数多く存在。
天守台の形がわかる石垣
日本で唯一、不等辺五角形をした三層6階建ての天守。旭川側から臨むと出っ張った天守と石垣を見られる。

天守台
旭川
城を防御する機能ももっていた旭川。岡山の大動脈でもあった。城と大きな川を眺めると趣ある絶景が味わえる。

旭川
宇喜多秀家当時の石垣
池田家による江戸時代の増改築で埋まってしまった築城当時である宇喜多時代の石垣。1993年の発掘調査によって見つかり、見学することができる。

石垣
表書院跡
藩主の政治の場であり、公邸でもあった御殿跡。池田時代に整備された。地面にはタイルで間取りを表示。60以上の部屋があった。

表書院跡
泉水
表書院の中庭にあった泉水を復元。発掘調査により井戸から備前焼の土管で給水する仕組みで、水を汲み入れていたことがわかった。

泉水
鏡石
本丸入口あたりに城主の威厳や権力を誇示するため巨石が使われることがあった。発掘調査で池田氏時代のものと考えられている。

鏡石
新岡山城リニューアルオープン 4つの「鍵」
【伝える】城は街のシンボルであり、その街の歴史の集積地でもある。リニューアルした岡山城では展示を一新。体験型の展示や映像を駆使した解説など、子供たちにも歴史好きにも岡山の歴史を楽しみながら「知る」ことができる施設になっている。「名前は知っているけど……」といった岡山ゆかりの人物の事蹟をわかりやすく紹介。他では見ることのできない貴重な史料や子ども向けの展示も充実。これまでにない新しい城の形を発信している。
伝える
【食べる】展示スペースと区画を分けることにより、天守内で飲食ができるカフェが常設されている。天守一階『UJO cafe』では岡山の地元食材をいかしたおいしいスイーツを楽しむことができる。また地下一階のお土産ショップでは岡山城天守でしか買えない限定オリジナル商品や岡山ならではの商品が買える。入館の記念に、お土産を買って帰ろう。知識と思い出、両方を得ることができる魅力的な城となった。
食べる
【集う】本丸内は、園路や階段手摺の設置などバリアフリー化し、散策しやすく整備。またタイトアップなど、城というより市民が別の角度で集まり、楽しめるイベントを季節ごとに開催。これまで以上に市民が「集う」場所へと進化。全国でも異例である取組として、一般向けに「天守の夜間一棟貸し」も実施。パーティーや懇親会などで手軽に「城主」気分を味わうことができる。さらに天守以外の施設も会議スペースなどとして借りられる。
集う
【展示監修】館内の展示を一新。監修者は、岡山市出身の歴史学者・磯田道史氏。テレビや雑誌でもおなじみの磯田氏ならではの発想のもと、「岡山の歴史の入口」をテーマにして、系統的で物語性のある展示を実現。幼い頃より岡山で生まれ育った磯田氏が「歴史好き」にも「子ども」にも、そして「岡山の市民」にも満足してもらえる工夫を凝らし、年齢や趣味趣向を選ばない“学び”と“気づき”を得ることができる展示に仕上げた。
岡山城リニューアルロゴ