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善神・悪神両方の逸話が残る「羅刹鬼」の不思議

鬼滅の戦史112


羅刹鬼(らせつき)とは、人を食らう恐ろしい鬼である。ただし、人前に現れるときは、男を惑わせる妖艶な美女であることが多いという。これは悪女の典型というべきだろう。いったい、どのように男たちを悩ませたのだろうか?


様々な逸話で知られる「羅刹鬼」

羅刹鬼がやってきたという伝承が残る三ツ石神社(岩手県盛岡市)。

 鬼とは、「人を襲って食らうもの」というのが、多くの人が想像する鬼の姿なのかもしれない。もちろん、鬼といっても、これまで紹介してきたように、様々なタイプの鬼がいるわけで、人を食わない鬼もおり、ひと言で「こういうもの」と言い切れるものではない。

 

 それでも、「人を食う鬼」という条件をつけてみれば、その総称として、「羅刹鬼」あるいは「羅刹神」の名を上げることができそうだ。

 

 古代インド神話に登場する破壊を司る悪神で、羅刹天(らせつてん)と呼ばれていたものが、仏教と習合して以降、四天王の一人・多聞天(たもんてん/毘沙門天/びしゃもんてん)に夜叉とともに仕えたとされる鬼である。悪神から、いつの間にか煩悩を食い尽くす善神となって、仏教の守護神としての顔を持つようになったという。

 

 ただし、陰陽(おんみょう)道における羅刹神は、これとは少々、ニュアンスが異なる。

 

 そこでは、吉凶の作用をもたらす8人の方位神の一人・赤舌神(しゃくぜつじん)が使役する六鬼の一人として登場する。凶悪なところは変わらないが、この悪神が6日毎に訪れる赤舌日を不吉な日とみなして、何事も控えるようにと言われることが多い。

 

 これは、カレンダーによく記載される六曜(先勝、友引、先負、仏滅、対案、赤口)のうちの赤口とも関わり合いのある神(赤口神)で、一説によれば、赤舌神と同神であると言われることもある。

 

 赤口の日が凶日とされるのは、この赤舌神あるいは赤口神が悪さをするためと考えられているのだ。ただし、牛の刻(1113時)だけは鬼神が休んでいる時間帯だということで、この間だけは吉とみなして良いのだとか。その辺り、何やら人間めいていて、思わず、頰が緩んでしまう。

 

男を惑わす美しい女性の姿で登場

 

 ちなみに、平安末期の説話集『今昔物語集』にも、羅刹鬼の名が何度か登場する。例えば、12巻「肥後国の書生羅刹の難を免るるものがたり」では、身の丈一丈(約3m)ばかりという巨人として登場。目と口から火を吹き出し、大口を開けて追いかけてきたというから、何ともおぞましい妖怪である。

 

 また、13巻「下野の僧古仙洞に住むものがたり」は、羅刹鬼とは知らず、その美しさに惹かれて欲情を抱いてしまったとある修行僧の話である。この堕落僧を遠くに投げ飛ばすという、荒っぽい手口ながらも仏心に立ち帰らせたのが羅刹女で、善神としての姿が描かれているというのが特徴的であった。

 

 さらに、17巻「鞍馬寺(くらまでら)に籠りて羅刹鬼の難を遁るる僧のものがたり」も興味深い。こちらは、一人鞍馬寺に籠(こも)って修行する僧が、焚き火をしているところから始まる。そこに、見知らぬ女が焚き火にあたるためにやってくる。と、これを鬼と見破った僧が、いきなり女の胸に焼いた鉄の杖を刺したというから、鬼こそとんだ災難であった。

 

 もしかしたら、ただ焚き火にあたりたかっただけなのかもしれない。だとすれば、被害者はむしろ鬼の方だったというべきだろう。もちろん、鬼が怒って大きな口を開けて追いかけてきたことはいうまでもない。この時は、毘沙門天が木を倒して鬼を押しつぶしたというが、鬼の哀れさが印象に残ってしまう物語であった。

          

巨石に縛り付けられて反省するも……

 

 この羅刹鬼がやってきたとの伝承が、岩手県に伝わっている。それが、盛岡市にある三ツ石神社である。境内に鎮座する三ツ石様と呼ばれる三つの大石、それが羅刹鬼ゆかりの岩と言い伝えられているのだ。

 

 何でもその昔、この辺りに羅刹鬼がやってきて、悪事の限りを尽くしたという。困り果てた村人がこの巨石に祈願したところ、鬼がこの岩に縛り付けられたのだとか。最終的に、2度と来ないことを約束。その証として、岩に手形(鬼の手形)を押していったとも。これが「岩手」の地名の由来であると、まことしやかに語られているのだ。

 

 さすがの鬼も、この神聖な威力に恐れをなして、それ以来2度とこの地に現れなくなったという。そこから「不来方(こずかた)」と呼ばれるようになったと言われている。しかし後に、この名は縁起が良くないとのことで、「盛岡」に改称されたようである。

 

 また、盛岡を代表する夏祭りの踊り「さんさ踊り」も、羅刹鬼がこの地から立ち去った喜びを表現したもののようである。

 

 ただしこの鬼、その後も悪さをし続けた。京の都にたどり着いて、羅生門(らしょうもん)に住み着いて、またもやひと暴れ。これを退治したのが渡辺綱(わたなべのつな)で、この連載の23回でその顛末を記しおいたので、読み直していただきたい。

 

 ともあれ、人を惑わせて食らうとされた悪神としての羅刹と、後に改心して善神となった羅刹。抹香臭(まっこうくさ)い善神よりも、悪神とはいえ美女として登場する羅刹の方に惹かれてしまうのは筆者だけではあるまい。それが、悪女に惑わされる男の性というべきか。

 

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藤井勝彦ふじい かつひこ

1955年大阪生まれ。歴史紀行作家・写真家。『日本神話の迷宮』『日本神話の謎を歩く』(天夢人)、『邪馬台国』『三国志合戰事典』『図解三国志』『図解ダーティヒロイン』(新紀元社)、『神々が宿る絶景100』(宝島社)、『写真で見る三国志』『世界遺産 富士山を行く!』『世界の国ぐに ビジュアル事典』(メイツ出版)、『中国の世界遺産』(JTBパブリッシング)など、日本および中国の古代史関連等の書籍を多数出版している。

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