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現在の地方統治制度の根源となった「郡県制」のはじまり

幕末~明治の偉人が生んだ制度・組織のはじまり⑮


現在の地方統治区分はいつからつくられたのか?戦国時代には「国」、江戸時代には「藩」という区分があったことが知られるが、我々の故郷を表すときにも馴染み深い「郡県」はいつから区分されはじめたのか、紹介する。


 

■古代中国の制度にならったとされる現在日本の統治制度のスタート

 

大政奉還
当時の政治体制に大きな影響を及ぼした大事ではあったが、その後への影響力としては版籍奉還と廃藩置県のほうが大きかった。(国立国会図書館蔵)

 

 明治維新は大政奉還と王政復古の大号令でなされたように思われがちだが、実のところ、新たな国づくりという点では、版籍奉還と廃藩置県のほうが重要だった。

 

 極端な言い方をすれば、大政奉還は徳川家が幕府としての役割を担えなくなったというので政権を返上しただけ、王政復古の大号令は天皇による親政を復活させると言いつつ、具体的なことは何も決まっていなかったからである。直轄の軍を持たず、全国から中央にどれだけ税収が集まってくるかも未知数なら、地方で実際に統治にあたる諸大名が素直に従うかどうかも、試してみないことにはわからない状態。そのテストと旧システムの破壊を兼ねて実行されたのが版籍奉還と廃藩置県だった。

 

 諸大名にいったん権力を手放させ、将軍ではなく天皇から新たに委任を受けた新政府が旧殿様に知藩事の肩書を与え、とりあえずの変革はこれにとどめる。旧藩内の上下関係や領内システムはそのままというのが、明治2年(1869)6月に実施された版籍奉還だった。

 

 これが想定以上にスムースに運んだことを受け、新政府は次のステップに進んだ。

 

 中央集権体制の構築へ向けて、大筋を提示したのは岩倉具視だが、実行に移すとなると、「顔」になれる人物と実務家の果たす役割が大きく、「顔」は西郷隆盛、実務面は大久保利通と木戸孝允が責任を負うこととなる。

 

大久保利通
廃藩置県、版籍奉還に大きく尽力し、大久保最大の功績ともいわれる。(国立国会図書館蔵)

 

木戸孝允
参与に任ぜられ、版籍奉還の実現に尽力。文部卿、内務卿、地方官会議議長、内閣顧問等を歴任し、明治新政府運営に大きく貢献した。(国立国会図書館蔵)

 

 まずなすべきは一時的な中央直轄軍づくりだった。薩摩と長州、土佐3藩の協力を得て、東京に1万人の兵を集める。これが臨時の中央直轄軍で、たとえ手間と時間がかかろうとも、今後発せられる改革命令に抗う藩があれば、その都度この軍を派遣して、力でねじ伏せる覚悟を示したのだった。

 

 これらの準備を経て、廃藩置県の命令が発せられたのは明治4年7月のことだった。

 

 どこか1藩や2藩は異を唱え、武力抵抗を厭わないはず。一戦を覚悟していた新政府にとっては意外なことに、廃藩置県に正面から反発した知藩事は一人もおらず、これまた拍子抜けと感じられるほど、スムースに事が運ばれた。

 

小田原城
廃藩置県令に従い、廃城となった代表的な城。天守閣は払い下げられ解体された。

 

 廃藩置県により全国は3府302県1使に再編され、知藩事は例外なく東京への移住を命じられるが、債務のすべてが新政府に肩代わりしてもらえ、華族の列に加えてもらえるというので、大半が嬉々として上京の途に就いた。

 

 一方、廃藩置県はこれで終わりでなく、同年10月には府県官制が発せられ、全国の府と県に中央政府の任命による知事が置かれた。

 

 同年11月には3府302県1使が3府72県1使と大幅にスリム化され、同じく同月に発せられた県治条例に従い、各県の態勢が整えられたことで、廃藩置県は完成。日本版の郡県制が緒に就いたのだった。

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島崎 晋しまざき すすむ

1963年東京生まれ。立教大学文学部史学科卒業。旅行代理店勤務、歴史雑誌の編集を経て、現在、歴史作家として幅広く活躍中。主な著書に『歴史を操った魔性の女たち』(廣済堂出版)、『眠れなくなるほど面白い 図解 孫子の兵法』(日本文芸社)、『仕事に効く! 繰り返す世界史』(総合法令出版)、『ざんねんな日本史』(小学館新書)、『覇権の歴史を見れば、世界がわかる』(ウェッジ)など多数。

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