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家臣の「転封」で政権の地固めを図った秀吉の手腕

戦国武将の領土変遷史㉑

秀吉が賤ヶ岳で柴田勝家を破り覇権を確立

増田長盛
五奉行のひとり。郡山城主。20万石を拝領。関東においても常陸の地を加増されるなど、政権の重要な地位を占めていた。『肖像集8』国立国会図書館蔵

 

 清洲(きよす)会議の結果、主導権を握った羽柴秀吉(はしばひでよし)に対し、柴田勝家(しばたかついえ)・織田信孝(おだのぶたか)は信長の孫で織田家の当主とされた織田三法師を秀吉に渡さず、対抗姿勢を強めていく。その緊張が限界を超えて起こったのが「賤ヶ岳(しずがたけ)の戦い」だ。

 

 秀吉は勝家との和親条約を無視して同年末までに勝家の養子・勝豊(かつとよ)の守る近江長浜城を下し、美濃岐阜城の織田信孝を孤立降伏させ、翌天正11年を迎えると伊勢の滝川一益(たきがわかずます)を攻撃した。これに我慢できなくなった勝家が積雪を冒して軍勢を進発。信孝も挙兵した。

 

 北近江柳ヶ瀬一帯に兵を配置し、自身は内中尾山(うちなかおやま)を本陣とした勝家と、賤ヶ岳周辺に布陣し強固な野戦陣地を敷いた秀吉。両者の膠着状態は続いたが、秀吉が信孝を攻めるため戦線を離れ美濃大垣城に入ると、佐久間盛政(さくまもりまさ/勝家の甥)は秀吉不在の隙に中川清秀(なかがわきよひで)の守る大岩山砦への迂回奇襲を強硬に提案。

 

 勝家は、「大岩山を攻略した後は現地に留まらず即刻引き上げる」という条件付きで許可したが、盛政は大岩山砦を強襲し首尾良く奪取して中川清秀を戦死させたあとも、引き揚げようとはせず砦に留まって兵の疲れを養う。

 

 一方、「柴田軍、動く」の報を受けた秀吉は、即座に賤ヶ岳への再転進を決定。53㎞以上の距離をわずか5時間で走破し、慌てて退却を開始した盛政隊への攻撃を開始した。4月21日のことだった。

 

 殿軍の柴田勝政(かつまさ/盛政の弟)隊が退却を開始したところを1万5000の兵に総突撃を命じ、手許の小姓たちまで投入する総力戦である。勝政勢はこれに対し混乱しながらも果敢に防戦、被害を出しつつも権現坂付近で待つ佐久間盛政隊に合流を果たしたが、ここで突如、後方の前田利家(まえだとしいえ)隊が離脱を始める。秀吉と旧知の仲である利家に戦意は乏しかった。

 

 これで盛政隊は動揺し、疲労の限界を迎えてついに潰乱(かいらん)。柴田勢は大敗を喫し、勝家は越前・北庄(きたのしょう)城に逃げ戻って羽柴勢の攻囲を受け、城とともに滅びた。信孝も自害させられ、越前は秀吉に味方した丹羽長秀に与えられ、長秀の跡の近江志賀郡・高島郡は秀吉の領地となる。

 

抵抗し続ける紀州勢も殲滅し、秀吉与党を畿内に転封

 

 中央の覇権を確立した秀吉は、直後の9月に本拠地の建設を開始する。大坂城である。かつての大坂本願寺の跡地を取り込んで「天下一富貴の湊」(『信長公記』)と呼ばれた大商業港湾都市を城下町とし、秀吉自らが「五畿内(近畿のうち山城・摂津・河内・大和・和泉)を大坂城の外構にする」(『柴田退治記』)と宣言した雄大な構想は、京の聚楽第(じゅらくだい)・伏見城の鼎立(ていりつ)によってより強固となる。

 

 翌天正12年の小牧・長久手の戦いを経て、秀吉は兵を紀伊に向けた。敵対する雑賀衆(さいかしゅう)・根来寺(ねごろじ)を討つためで、10万の大軍が南方へ進み、和泉貝塚(かいづか)の千石堀(せんごくぼり)城攻めでは紀州勢2000を殲滅。周辺の城砦に籠もる紀州勢も次々に掃討されていった。前線での戦闘で主力兵力を消耗した紀州勢はすでに抵抗力を持たず、根来寺と粉河寺(こかわでら)、雑賀荘も炎上。秀吉はひと月で紀伊をほぼ制圧した。

 

 紀州攻めの後、四国平定と前後して秀吉は「五畿内を大坂の外構にする」という構想を実現するための人事に取り組む。

 

 ちなみに秀吉は、信長が家臣に所領を与える際に「加増(かぞう)」(従来の所領に新たな分を加える)をおこなったのに対し、「転封(てんぽう)」(まったく別の場所に移す)を多用した。これによって与党の武将たちを土地や領民から切り離し、秀吉への依存度を高めようとしたのだ。この手法は徳川幕府にも引き継がれている。

 

 弟の秀長には紀伊・和泉・大和の合計100万石を与え、甥の秀次には東近江の五郡・八幡山20万石(これに堀尾吉晴・ほりおよしはる、中村一氏・なかむらかずうじ、山内一豊・やまうちかずとよ、田中吉政・たなかよしまさら附家老「つけがろう」の領地23万石を加えて計43万石)を与えて、近江の体制を固めたのである。

 

監修・文/橋場日月

『歴史人』202210月号「戦国武将の勢力変遷マップ」より)

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