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武蔵国の権益をめぐり討伐された畠山重忠【前編】

鎌倉殿の「大粛清」劇⑫

平賀と畠山の対立背景は受領と在庁官人の対立

重忠奉納の赤糸威鎧
青梅の武蔵御嶽神社の赤糸威鎧(国宝)の模造。原品は畠山重忠が奉納したと伝えられ、札の黒漆、威の赤糸、金物の鍍金など、平安時代後期の兜と袖を完備した鎧の形式を伝える。東京国立博物館蔵 Colbase

 比企氏との権力闘争に打ち勝った北条時政は、比企氏の本拠である武蔵国の戦後処理に着手した。武蔵国は関東御分国のひとつであったことから、将軍が国司を推挙(すいきょ)することができる国であった。この頃の武蔵守は平賀朝雅(ひらがともまさ)であった。

 

 平賀氏は信濃国佐久郡(長野県佐久市)を本拠とする義光流源氏である。このことから一門として頼朝に重用された。武蔵守に任じられたのは朝雅の父義信(よしのぶ)が最初で、兄大内惟義(おおうちこれよし)を経て朝雅に継承された。朝雅の母は頼朝の乳母・比企尼(ひきのあま)の3女で、朝雅は頼朝の猶子(ゆうし/儀礼的な親子関係)となっている。

 

 さらに朝雅は、北条時政と後妻・牧の方との間に生まれた娘を妻にした。このことで、時政と牧の方の策謀に翻弄され続ける運命を背負ってしまう。

 

 さて、比企氏亡きあとの武蔵国で優勢を誇ったのが畠山(はたけやま)氏である。畠山氏は良文(よしふみ)流秩父(ちちぶ)平氏の嫡流で、畠山庄司(しょうじ)を称した。畠山氏の本拠である武蔵国男衾(おぶすま)郡畠山館(埼玉県深谷市)や菅谷(すがや)館(同嵐山町)は鎌倉街道上道が西上野から信濃に向かう本線と、東上野の新田郡や下野の足利郡に向かう支線とが分岐する交通の要衝エリアにあったが、このエリアは比企氏の本拠比企郡にも重なった。

 

 また、畠山氏と比企氏は北西武蔵の児玉(こだま)党との利害をめぐって競い合っていた。重忠は武蔵国で同族河越(かわごえ)氏が保持していた留守所総検校職(るすどころそうけんぎょうしき)を獲得し、武蔵国の武士勢力を統率する大義を手にしていた。また、重忠の妻は時政と前妻の間の娘であった。比企氏の乱では「壮力の郎従」を投入した重忠の奮闘があって、北条一族は一幡の小御所を制圧し、比企一族勢力を粛清することができた。北武蔵の権益をめぐって比企氏と競合し、舅(しゅうと)北条時政との縁故をもつ重忠が北条氏に協力し、事件で奮闘したのは当然であった。

 

 比企の乱の翌月、建仁3年(1203)10月3日、武蔵守朝雅が京都守護に任じられ上洛することになった。10月27日、時政は和田義盛を奉行として「武蔵国の諸家の者は遠州(北条時政)に対して二心を抱くことがあってはならない」という命令を将軍実朝の名で発した。朝雅が武蔵守として担っていた武蔵国務は、関東御分国を管理する政所の所掌でもある。よって、将軍家政所の筆頭別当・時政が武蔵国務を掌握し、主導することとなったのだ。

 

嫡男政範の客死を聞き畠山氏を敵視する時政

 

 元久元年(1204)正月の京都では、「関東で庄司次郎(畠山重忠)が反乱を起こし、敗れた時政が山中に逃げ、広元は殺された」という風聞が伝わるほどであった(明月記)。

 

 またその年の10月、将軍実朝の妻として坊門信清の娘を迎えるため、重忠の嫡子・畠山重保ら御家人が上洛した。その任務中の11月4日、京都守護で武蔵守の平賀朝雅の六角洞院(ろっかくとういん)亭で宴席が催された。その席上で亭主朝雅と重保の間で口論が発生。事なきを得たものの、その翌日には共に上洛していた北条政範(まさのり/時政と牧の方の子)が急死するという異変も起こる。

 

「島津家文書」には正治2年と推定される正月13日付けの2通の重忠書状が残されている。これによると、重忠・重保父子が時政から「勘当」を言い渡され、絶縁されていたことがわかる。千葉成胤(なりたね)が仲裁に入り、重忠が「遺恨は無い」ことを誓って許されたようであるが。

 

監修・文/簗瀬大輔

『歴史人』20227月号「源頼朝亡き後の北条義時と13人の御家人」より

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