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甲斐統一を成し遂げた「武田信虎」の再評価

武田三代栄衰記①

親族、国衆と血まみれの国内統一戦

要害山城
要害山城(山梨県甲府市)は、躑躅ヶ崎館を建てた翌年の永正17年(1520)、緊急時に立てこもる詰城として築いた。砦や狼煙台が設置され、信玄が築いた詰城の特徴と似通っている。信虎正室・大井夫人は、今川氏との戦の最中にこの城に避難して信玄を産んだという。

 武田信虎(のぶとら)は家督を継ぐと元服し、五郎信直(のぶなお)を名乗った。実名を信虎に改名するのは、甲斐統一を果たした大永元年(1521)になる。信虎が幼少だったため、叔父信恵がこれに対抗してきた。抗争は永正5年(1508)に本格化し、10月の合戦で信恵一族を滅亡させた。これによって武田宗家は信虎の手で統一され、明応元年(1492)以来の武田宗家の内乱はようやくに終結をみた。

 

 同5年12月、信恵方の郡内小山田弥太郎が攻め寄せてきた。信虎はこれにも勝利し、小山田弥太郎を戦死させた。同6年秋、今度は信虎が郡内に侵攻し、同7年春に小山田家を降伏させた。その際に信虎の妹が小山田家当主の越中守信有(弥太郎の子)に嫁いだとみられる。小山田家は、以後は信虎に従属した。

 

 しかしその頃には、甲斐の国衆たちのうちでは、逸見地域の武田今井家は信濃諏訪家に従属し、河内領の武田穴山家と西郡の武田大井家は今川家に従属して、この頃の甲斐の三分一程度は、今川家の領国になっている、という具合であった。信虎がそれら国衆の服属を進めるには、その背後にある国外勢力との抗争に勝利しなくてはならなくなっていた。

 

 同12年に信虎は大井信達(のぶさと)・信業(のぶなり)父子と抗争し、その本拠を攻撃した。しかし攻略できず、また大井家支援のため今川軍の進軍がみられ、駿河・甲斐国境が封鎖された。同13年9月には、今川軍に東郡まで侵攻された。信虎は本拠の東郡石和(いさわ)川田館から退去を余儀なくされるほどであった。今川軍は中郡で在陣を続け、また郡内南部にも進軍した。同14年1月に和睦を働きかけられ、3月に成立、中郡在陣の今川軍は駿河に退去した。

 

 これにより大井家とは和睦したと思われる。その結果として、信虎は大井信達の娘(瑞雲院殿)を正妻に迎えたとみられる。彼女は信虎と同年の20歳であった。両者の間には、同16年に長女(のち今川義元妻、定恵院殿/じょうけいいん)が生まれている。同15年には郡内でも今川家と小山田家の和睦が成立した。

 

 今川氏との全面的な和睦をみると、信虎は新たな本拠の建設にかかった。甲府躑躅ヶ崎(つづじがさき)館である。そのさなかの同16年1月から、逸見地域の今井信元(のぶもと)との抗争が始まった。信虎は今井家を降伏させ、今井家の娘(西昌院殿、信元の姉妹か)を別妻に迎えている。

 

本拠地を甲府に移し家臣団を集住させる

 

 そして同年12月20日に、信虎は完成した新館に移住した。さらに同所には「一国大人様」、すなわち国内の従属した国衆を含めて有力領主らを集住させた。甲府の開設は、信直による甲斐統一の動向を、はっきりとしたかたちで示した。

 

 しかし同17年、東郡の栗原家・大井家・今井家らが反抗し、甲府から退去した。信虎は、三方面に同時に軍勢を派遣して攻撃し、すぐに降伏させた。すでに信虎の勢力は国衆とは比較にならないほどに成長していた。

 

 そして大永元年(1521)4月19日に、信虎は室町幕府から従五位下の位階と左京大夫(さきょうのだいぶ)の官職を与えられた。実名を信虎に改めたのも同時のこととみられる。この任官は、信虎が幕府から甲斐国主として、国持大名として認められたことを意味した。

 

 信虎に従っていない有力国衆は、河内の穴山家が残されたにすぎなかった。同年7月に、穴山信風(のぶかぜ)は信虎に従属し、今川家への人質を引き上げている。これに対して今川家から8月に侵攻をうけた。迎撃に失敗し、本拠近くまで進軍を許したが、10月の飯田河原(甲府市)合戦、11月の上条河原(甲斐市)合戦で勝利し、撃退に成功。今川軍は同2年1月に駿河に退散した。信虎はこれにより、甲斐統一を確固たるものにした。

 

 そして信虎は、今川軍を敗退させると、郡内富士山と河内身延山(みのぶさん)に相次いで参詣した。ともに周囲にも聞こえた霊山への参詣は、信虎が甲斐統一を果たしたことを国内外に示す、一大デモンストレーションであった。

 

監修・文/黒田基樹

『歴史人』12月号「武田三代」より)

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