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「壬申の乱」の謎 ~古代史最大の内戦に発展した叔父と甥の皇位継承争い~

計画的だった大海人皇子と隙を突かれた大友皇子

大海人皇子(天武天皇)
天智天皇在位中に皇位継承をほのめかされたが、天皇の本心を疑い辞退。吉野に隠棲し、状況の推移を見守る。国立国会図書館蔵

「何ぞ黙して身を亡さむや」

 

 天智(てんち)天皇の弟・大海人皇子(おおあまのみこ)が、皇位を甥である大友皇子に譲って吉野へと隠棲(いんせい)したのが、天智天皇10年(671)10月19日のこと。その半年余り後に発したとされるのが、この言葉であった。自らは清く身を引いたはずなのに、大友皇子率いる近江朝側が、開戦準備を進めているという。天智天皇の山陵を築くとしながらも、その実、人夫たちに武器を持たせているとも。そればかりか、吉野への糧道(りょうどう)までも塞いでいるとまで耳にした大海人皇子が、咄嗟(とっさ)に口を衝いて出たのが、この悲痛な叫び声だった。

 

 「このまま黙って身を滅ぼしてなるものか」と、まるで降りかかった火の粉を払うかのように、開戦の決意を語るのである。大海人皇子と大友皇子(おおとものおうじ)が、天智天皇亡き後の皇位継承を巡って繰り広げた壬申(じんしん)の乱。その戦闘開始の合図ともいえるのが、このひと言であった。

 

 ところが、予期せぬ事態が起きて慌てて出立(しゅったつ)したにもかかわらず、その後の進軍状況は、実に効率の良いものであった。吉野を出立したのが6月24日。2日後の26日には、美濃の軍勢3000を集めるとともに、すでに不破道(ふわのみち)を塞いだとの知らせも届いた。大友側と東国との連絡を遮断することに成功したわけである。ここを封鎖して地元の豪族を取り込んでしまえば、近江朝が派遣した国司の意思など無視して、その兵を自軍に取り込むことができた。つまりこの時点で、大海人側が極めて有利になったと考えられるのだ。

 

 さらに、翌27日には、尾張国司が2万もの兵を率いて帰属してきたとも。その後も連戦連勝。わずか1ヶ月たらずで、戦いを制してしまったというのだから驚くほかない。

 

 その周到さぶりは、とても止むに止まれず挙兵したとは思えないのである。

 

 実は、この「やむなく挙兵」したというのは真っ赤な嘘で、大友皇子が天智天皇の陵墓(りょうぼ)建造に忙殺されている間に、大海人皇子側が、自らの湯沐邑(とうもくゆう/領地)である美濃の朴井連君(えのいのおきみ)らに大友側の動向を監視させ、尾張とも連携をとりながら、開戦の準備を抜かりなく行っていたのだ。虎視眈々と出陣のチャンスを伺い、全ての準備が整い終えたのが、まさに出立した6月24日だったのだ。

 

のちの持統天皇は壬申の乱の黒幕だった?

 

 では、その首謀者は大海人皇子だったのだろうか。もちろん当事者であるから、大海人皇子が関わっていたことはいうまでもない。しかし、この開戦を最も望んでいたのは、実は大海人皇子の妻・鸕野讃良(うののさらめ)、後の持統(じとう)天皇だったのではないだろうか。

 

 大友皇子が皇位に就けば、その次の皇位が大友皇子の子である葛野王(かどののおう)へと移ってしまうことを危惧したからである。鸕野讃良にとって、自らの子である草壁皇子(くさかべのみこ)に皇位を継がせたいとの思いが強かったに違いない。一方、大海人皇子にとってみれば、葛野王は、自分の娘・十市皇女(とおちのひめみこ)の子だから不服はない。つまり、大友皇子が皇位に就いて一番困るのが、鸕野讃良だったというわけである。

 

 また、大海人皇子側に幸いしたのが、大友皇子の近江朝側が、思ったように兵を集められなかったことである。東国は前述のごとく大海人皇子側が先に制してしまったから、頼みの綱は西国である。しかし、数年前の663年に起きた白村江の戦いにおいて、西国の豪族たちの多くが兵を駆り出されて疲弊。この辺りの豪族たちにとっては、これ以上、近江朝に与(くみ)したくないとの思いが強かったのである。

 

 こうして戦いを有利に進めてきた大海人皇子軍は、最後の決戦の地・瀬田においても圧勝。大友陣営は総崩れとなって敗走していった。大友皇子は山崎の地で首を括(くく)って自害し、戦いの幕を閉じたのである。『日本書紀』では、大友皇子が加害者であるかのように記されているが、その実、鸕野讃良が大海人皇子にけしかけて戦いに臨んだと思えるのだ。

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