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江戸時代に由来する渋谷・麻布・青山・芝・目黒の地名

今月の歴史人 Part4


現在、若者たちが日本中から集まり、にぎわいを見せる「渋谷」「青山」「麻布」「芝」「目黒」は東京を代表する繁華街である。これらの地名は全国的にも知名度が高いが、すべて江戸時代に由来するという。本記事では、普段気にすることのない地名の由来、どのような経緯で、どのように名付けられたのか、を解説する


 

江戸城の西の防御のため武家屋敷を建設し市街地化

 

 麻布・青山・渋谷・芝・目黒エリアも山の手として武蔵野台地の一角を占めたが、現在の行政単位では主に港区と渋谷区となる。江戸城の西や南の守りを固めるため、大名屋敷のほか幕臣団の屋敷が置かれた地域だ。江戸初期は田畑が広がる郊外地だったが、江戸の拡大により市街地化していくエリアでもあった。

 

 まずは現在の麻布にあたるエリアから見ていこう。

 

麻布麻布の名所・一本松は、天慶2年(939)の平将門の乱を討伐する軍の副将だった源経基ゆかりの木。上図の赤枠部分にあり、ここが現在の麻布十番。(国立国会図書館蔵)


麻布

『絵本江戸土産』に描かれた江戸時代の麻布。(国立国会図書館蔵)

 

 麻布の地名は、かつて麻が栽培され、布が織られた土地であったことに由来する。阿佐布、阿佐婦とも書かれた。武家屋敷に加えて寺院が数多く置かれて江戸防備の一翼を担った。牛込と同じく寺町としての顔も持っていた。

 

青山地図の赤枠周辺に並ぶのが鉄砲百人組の屋敷。明治の初め頃までは、旧暦の7月に各戸に高々と盆灯籠を掲げる「星灯籠」の祭事が行われていた。現在の東京メトロ表参道駅にほど近い。(国立国会図書館蔵)

 

 麻布の北に拡がる青山の地名は、家康の重臣・青山忠成に由来する。家康が江戸城に入って関東の太守となると、青山は関東を治める関東総奉行という重職に任命され、江戸城近くに土地を与えられた。馬で走った限りの土地を与えるとの沙汰であったため、拝領した屋敷は広大なものとなったが、これにちなんで与えられた土地がそのまま青山と名付けられたという。

 

 青山百人町の地名は、青山忠成が同じくその由来であった。関東総奉行に任命された青山は鉄砲百人組の与力・同心を配下としたが、百人組が集住したことにちなんで、そのエリアが百人町と呼ばれるようになった。同様の事例としては、大久保村のうち鉄砲百人組の与力・同心が集住したことで百人町(現新宿区)と呼ばれた事例がある。

 

渋谷『江戸切絵図』(右)の赤枠内に道玄坂と宮益坂の名が見える。渋谷は坂が多い地の谷間に位置していることから「渋谷」と呼ばれた説もある。上図左側は嘉永4年(1851)の渋谷界隈を描いた古地図。

 

右:国立国会図書館蔵。左:『渋谷宮益辺図』国土地理院蔵

 

 青山の西に位置する渋谷の地名の由来については諸説ある。かつては塩谷と呼ばれていたが、いつしか渋谷と改められた説。平安時代の終わりに、この辺りの領主・河崎重家が京都御所に侵入した渋谷権介盛国を捕まえたことを賞されて渋谷姓を与えられ、領地も渋谷と改められた説。鎌倉時代には相模国の渋谷氏の領地だったことで渋谷と呼ばれた説などが伝えられている。

 

東海道が整備されると急速に発展したエリア。宝永7年(1710)、朝鮮通信使を江戸城に迎えるため「芝口御門」を設け、御門の入り口の橋が「芝口橋」と呼ばれるようになった。↑の方向に行くと金杉橋があり、渡ると東海道。(国立国会図書館蔵)


愛宕山

『東都芝愛宕山遠望品川海図』(国立国会図書館蔵)

 

 戦前までは東京市の区名でもあった芝は、かつて江戸湾に面したエリアだった。地名については、一面に芝が生い茂っていたことのほか、海で海苔を取っていたことを由来とする説もある。海苔については木の小(粗朶)を海中に並べて付着させる手法が取られたが、その小枝を柴と言うため、いつしか芝と呼び習わされるようになったともいう。

 

 目黒の地名の由来も諸説ある。馬と畦道を意味する馬畔(めぐろ)という音を語源とする説。窪地や谷を表わす「め」と、嶺を意味する「くろ」が結合したという、このエリアの地形を語源とする説などが伝わっている。

 

監修・文/安藤優一郎

『歴史人』1月号「地名の歴史をたどる」より

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