「仏像造り」に秘められた木材へのこだわりと手法
「歴史人」こぼれ話・第17回
軽量化により木割れを防いだ内刳(うちぐ)り

内刳りした空洞のなかに経巻、仏画、工芸品などを入れることもあった寄木造。イラスト/瀬川尚志
仏像造りの材料は、檜(ひのき)・松・ 樟(くすのき)・框(かまち)・白壇(びゃくだん)などが用いられる。それぞの材料には木の特性があり、用途に応じて使い分けられる。
「一木造り」とは、一本の木材から仏像を丸彫りした木像の技法で、継ぎ目が無いのが特徴である。完全なものは、像だけでなく台座までを一本の木材で作った。
ところが、製作の途中で木が割れたりすることも多いので、複雑な彫刻を施すのが極めて困難だった。また、一木造りは、大きな仏像を作るのには向いていない技法といわれている。
そのような事情から、あまりに製作が困難なため、完全な一木造りはほとんど存在しないのである。現在では、頭と体が一木であれば、手足などが別の木材を用いていて結合させても、一木造りとみなされている。
奈良末期から平安初期の仏像には、一木造りの仏像が多く、その技法が徐々に発達していった。翻波式(ほんぱしき)の美しい衣文も、一木造りの大きな特長である。その後、発達したのが複数の部材を組み合わせた「寄木造」である。
「内刳り」は木の中心部分を刳り貫くことで、重量を軽くして、木割れを防いだ。また、木の外部と内部の乾燥状態の違いから、木の狂いが生じるのだが、それを最小限に防ぐというメリットもあったのである。
内刳りした空洞のなかには、経巻、仏画、工芸品などを入れることもあった。それもまた、貴重なものである。なお、像を製作途中で前後に割り、大きく内刳をしたあと、再びそれを矧(は)ぎ付ける技法のことを「割矧(わりはぎ)造」という。
次に、一木造りの逸品を紹介しておこう。719年、唐からわが国にもたらされた法隆寺(奈良市)の「九面観音(くめんかんのん)立像」(国宝)は、すべて白檀を素材とした一木造りとして知られている。
中でも驚倒すべきは、耳璫(じとう・イヤリング)なども一木で作られていることだ。これは、堅い密度が詰まった「白檀」という素材と、高度な技量を持った仏師が存在してこそ、可能になったと考えられる。