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映画『神在月のこども』は神話・伝承を通して人類に何を問いかけているのか?

歴史を楽しむ「映画の時間」第21回 

出雲の国に全国から縁を結ぶ神々が集合! 「神在月」に走る少女カンナの使命とは?

©2021 映画「神在月のこども」製作御縁会

 『神在月のこども』は、12歳のカンナを主人公にしたロードムービー・スタイルの、ファンタジー・アニメーションである。

 

 10月は「神無月」(かんなづき)と呼ばれるが、島根県の出雲(いづも)地方では、この時期に全国から姿を消した神様が出雲に集って翌年の縁を結ぶ会議をすることから「神在月」(かみありづき)という。

 

亡くなった母に会いたいカンナに神の使い・白兎が与えた役割

©2021 映画「神在月のこども」製作御縁会

 主人公のカンナは母親を亡くしたことがきっかけで、大好きだった走ることと向き合えなくなった少女。彼女は母の形見である、勾玉(まがたま)の付いた腕輪を装着したことから、神の使いの白兎に使命を与えられる。

 

 カンナの母は“韋駄天(いだてん)”の末裔で、毎年神在月に行わる神々の宴会のために、全国の神社を駆けまわって“馳走(ちそう)”を集め、出雲大社まで届けていた。その娘であるカンナに、母親の役目を引き継いでほしいというのだ。

 

 走ることが嫌になっているカンナは最初、それを断ろうとするが、出雲に行けば亡くなった母親にもう一度会えると白兎が言ったことから、彼女は一路出雲を目指すことになる。

 

ライバルは韋駄天に役目を奪われ鬼に落とされた夜叉の少年

©2021 映画「神在月のこども」製作御縁会

 

 東京墨田区にある牛島神社から島根県の出雲大社まで、様々な神社の神様と出会いながら旅を続けるカンナ。その行く手を阻もうとするのが、かつて韋駄天に馳走を届ける役目を奪われて鬼に落とされた“夜叉”の少年。

 

 先祖の無念を晴らして韋駄天に足の速さで勝とうとする夜叉との出会いによって、逆にカンナは走ることに真剣になっていく。ここでは母親を亡くして喪失感の中にいたカンナが、彼女の役目をサポートする白兎とライバルである夜叉の存在によって、変化していく姿が描かれる。

 

「馳走」の語源はお釈迦様のために食物を集めたこと

©2021 映画「神在月のこども」製作御縁会

 そもそも“馳走”という言葉は、お釈迦様のために各地を駈け廻って食物を集めたことがその語源になっていて、その“馳走”を集める役割をしたのが“韋駄天”だという。この映画ではそれを、出雲大社に集まる八百万(やおろず)の神が食べる”馳走“と捉えている。

 

 各神社の神々が“馳走”として提供するのは餅や魚、たっぷり実った稲など、大地と海の恵みの数々。自然と共生してきた日本人の精神的なルーツがそこにはあり、今を生きる子どもたちに氏神様と自分たちが生きる土地との関係性を感じてもらうという意味でも、お勧めしたい作品になっている。

 

豪華な声優陣と各地の伝承に根差した神々の姿も魅力

©2021 映画「神在月のこども」製作御縁会

 またカンナの声を、昨年の映画「朝が来る」で各映画賞の助演女優賞に輝いた若き演技派・蒔田彩珠(まきた・あじゅ)が担当するのを始め、カンナの母を柴咲(しばさき)コウ、父親を井浦新(いうら・あらた)が務め、プロの声優も坂本真綾(さかもと・まあや)や入野自由(いりの・みゆ)、ベテランの神谷明(かみや・あきら)などが参加していて、豪華な布陣。

 

 さらに牛島神社の巨大な牛神を始め、カンナの役目に対する本気度を試そうとする長野県・諏訪大社の龍神など、各地の伝承に根差したユニークな姿の神々との触れ合いも見どころ。恵比寿や大国主まで登場する、神様のオールスターキャストになっている。

 

最近の映画に神話や伝承のキャラクターが登場するのはなぜか?

©2021 映画「神在月のこども」製作御縁会

  最近は東日本大震災後の岩手県を舞台に、東北の河童や地蔵、座敷童が心に傷を負った少女たちと触れ合う『岬のマヨイガ』や、フォッサマグナから出現して暴れまわる巨大な妖怪獣を全国の妖怪たちが力を合わせて止めようとする『妖怪大戦争 ガーディアンズ』など、神話・伝承に出てくるキャラクターが活躍する作品が目につく。

 

 思えばゴジラも、1954年の第1作では水爆実験が行われたことで放射能によって変化し、怪獣となって人類に攻撃を仕掛けてきた、大戸島に伝わる伝説の怪物だった。

 

 人間が何か自然の理から道を踏み外しそうになった時、それを正そうとして現れる映画の神話・伝承のキャラクターたち。彼らが登場する作品が次々に作られるのは、人類に自然とのつながりを考え直させる存在が、今また必要になっているということの現れなのかもしれない。

 

 

【映画情報】

10月 8 日(金曜日)より全国ロードショー

『神在月のこども』

原作・コミュニケーション監督/四戸俊成、アニメーション監督:白井孝奈

出演/蒔田彩珠(カンナ役)、坂本真綾(神使の兎・シロ役)、入野自由(鬼の少年・夜叉役)

柴崎コウ(葉山弥生役)、井浦新(葉山典正役)

時間/99分 製作年/2021年 製作国/日本

公式サイト

https://kamiari-kodomo.jp/

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金澤 誠かなざわ まこと

1961年生まれ。映画ライター。『キネマ旬報』などに執筆。これまで取材した映画人は、黒澤明や高倉健など8000人を超える。主な著書に『誰かが行かねば、道はできない』(木村大作と共著)、『映画道楽』、『新・映画道楽~ちょい町エレジー』(鈴木敏夫と共著)などがある。現在『キネマ旬報』誌上で、録音技師・紅谷愃一の映画人生をたどる『神の耳を持つ男』を連載中。

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