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秀吉が「100万の軍勢を預けたい」と褒めた知謀の将 〜大谷刑部少輔吉継〜

新解釈! 賤ケ岳七本槍列伝(番外編) 〜加藤清正、福島正則から片桐且元まで、秀吉をささえた勇士たちの実像〜 第14回

名コンビだった吉継と石田三成

 

近江出身で秀吉子飼いの家臣となり、早くから馬廻衆などで活躍。同じ近江出身の石田三成とは仲が良く、関ヶ原合戦では西軍に味方する。 イラスト/さとうただし

 

 石田三成の盟友ともされる大谷吉継(よしつぐ/紀之介)については、その出生や父祖について様々な説があって定まってはいない。ただ、三成の取り成しで15歳で秀吉の小姓となり、後に越前敦賀5万石の大名になったことや、関ヶ原合戦で西軍に属して討ち死にしたことなどだけが確かなこととされる。

 

 吉継は合戦上手で、秀吉が「紀之介(吉継)に100万の軍勢を預けて敵と戦わせてみたい」と語った、という伝説めいた話も残されている。実は吉継は合戦上手というよりも、様々なデータを分析して地勢を読み、敵の動きを読み取るという「特異な才能・兵法眼」の持ち主であった。そうした「読み」を秀吉の命令によって兵站などに活かしたのが、三成であった。その意味では、三成と吉継は名コンビであった。天気を読み、地域の事情を知り、周辺の国衆(地域豪族)の動きを捉える。こうした情報をインプットして、それを戦いに役立てる。これが吉継の真骨頂だった。

 

 例えば、賤ヶ岳に陣地を構築することも「琵琶湖北岸の山岳地帯が、越前北ノ庄から出て来る柴田勢にとって、最後の関門になるはず。この湖北の山間部にある狭い道がその軍用路になろう。だからここで敵を食い止めた後の決戦の地は、賤ヶ岳になろう」という吉継の「兵法眼」によるものであった。

 

 賤ヶ岳合戦では、それ以前の岐阜からの大返しも含めて、三成と吉継は連携し合って秀吉の動きをスムーズなものにした。当然のことながら、7本槍よりも長い時間を秀吉の近くで過ごしている。秀吉が命じた突撃にも、7本槍と同じくらいの速さで、敵に当たったはずである。7本槍とは別に「先駆衆」とされたのは、吉継・三成ら8人であったという。

 

 天正11年(1583)4月21日卯の刻(午前6時)、朝日が昇った直後のことであった。秀吉は吉継・三成・清正・正則ら供回りの近習たちに「手柄を立てよ!」と命じた。敵の先鋒大将・佐久間信盛(のぶもり)が殿軍(しんがり)を行く弟・佐久間三左衛門を無事に収容するために一気に権現坂を駆け上がれと叫んだ。その瞬間、吉継は槍を取って先駆けた。三成も続く。長く延びた殿軍・佐久間勢に坂の上から襲い掛かった。

 

 佐久間勢も手強い。戦況はほぼ五分五分。そこに吉継らは新手の攻撃隊として一塊りになって横合いから突っ込んだのであった。混乱する敵勢の真っ只中に「先駆衆」はいた。吉継は、先頭を切って槍で突きまくる。三成も石川貞友も遮二無二槍を振り回す。

 

 こうしてさしもの佐久間勢も支えきれず、崩壊した。秀吉の目には、先駆衆・7本槍ともに大活躍と映っていた筈であった。

 

 だが、これ以後、吉継は三成同様に武将というよりも、専ら兵站、奉行職など実務畑を歩くことになる。秀吉には、マルチ才能を持つ吉継と三成は、天下取りの後の大事な官僚として温存するという腹づもりであった。猪武者(いのししむしゃ)である清正・正則らは、戦場で討ち死にするかもしれないが、これら武将の代わりはいくらでもいる。しかし、本物の実務が分かる官僚はそれほど多くない。だからこそ、これが秀吉の吉継・三成は秀吉政権の吏僚とした重宝されたのだ。

 

 その後、吉継は関ヶ原合戦で盟友・三成に応じ、壮烈な討ち死を遂げるのである。

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江宮 隆之えみや たかゆき

1948年生まれ、山梨県出身。中央大学法学部卒業後、山梨日日新聞入社。編制局長・論説委員長などを経て歴史作家として活躍。1989年『経清記』(新人物往来社)で第13回歴史文学賞、1995年『白磁の人』(河出書房新社)で第8回中村星湖文学賞を受賞。著書には『7人の主君を渡り歩いた男藤堂高虎という生き方』(KADOKAWA)、『昭和まで生きた「最後のお殿様」浅野長勲』(パンダ・パブリッシング)など多数ある。

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