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すでに30歳であった脇坂安治は、なぜ七本槍の勇士になれたのか? 〜脇坂中務少輔安治〜

新解釈! 賤ケ岳七本槍列伝〜加藤清正、福島正則から片桐且元まで、秀吉をささえた勇士たちの実像〜 第5回

7本槍メンバーの最年長は人品も高かった

賤ヶ岳合戦当時30歳で、七本槍の中では最年長だった安治。その実戦経験は豊富で、信長の上洛戦、秀吉の中国攻めなど数多くの合戦で武功を重ねていた。イラスト/さとうただし

 脇坂安治(わきざかやすはる)は、近江国浅井郡脇坂郷(現、滋賀県湖北町)で天文23年(1554)に生まれた。父・安明は片桐且元の父と同様に小谷城(おだにじょう)・浅井長政の家臣であったが、箕作(みつくり)城主・六角承禎(ろっかくしょうてい)を攻めた戦いで討ち死にした。この時に、共に箕作城を攻めていた織田信長配下の木下藤吉郎に拾われて家臣になった。安治、15歳であった。

 

 その後、長政が義兄・信長に反旗を翻したが、浅井勢との合戦にも安治は秀吉の麾下(きか)として勇敢に戦った。この頃の安治のあだ名は「栗の甚内」であった。丸い顔で赤黒色だったためで、甚内は幼少からの呼称であった。安治が初めて秀吉から知行地を与えられたのは、天正4年(1567)の、信長の安土城築城の際であった。築城に使う大石を巡って丹羽長秀(にわながひで)の人夫と悶着になったが、安治の主張の正しさが認められたことがあった。この後、秀吉から褒美として知行地を与えられたものである。

 

 天正6年2月の、中国・毛利攻めの緒戦で、播磨・三木城の別所長治を攻めた戦いで安治は、得意の槍を振るって奮戦。兜首を取るという手柄を挙げた。続いて三木城の支城・神吉城(かんきじょう)を攻めた時、大手の戸口まで攻め寄せた安治は、城内から撃ってきた鉄砲が兜に当たり、目が眩んで倒れた。傷はない。暫く休息した後に、再び槍を取って大手口から馬を乗り入れると味方もこの安治の奮闘に喚起されて一挙に進み、神吉城を陥落させた。

 

 安治には、もう一つ武勇伝がある。明智光秀が丹波攻めの最中、「悪右衛門」と呼ばれた勇猛の武将・赤井直政を攻めあぐねた。信長から光秀の支援を命じられた秀吉は、安治を派遣して降伏勧告をさせた。単身、敵城に乗り込んできた安治の勇気を称えて、悪右衛門は大事にしていた「貂(てん)の皮で作った槍鞘(やりさや)」を与えた。後の決戦で二人はまみえ、安治が悪右衛門を討ち取る手柄を立てた。以来、この「貂の皮の槍鞘」は脇坂家の家宝となった。

 

 天正11年(1583)4月の賤ヶ岳合戦の時点で安治は30歳。7本槍のメンバーとしては最年長である。まだ300石の小身のままであった。福島正則や加藤清正が、柴田勢の勇将を討ち取る一番槍の手柄を立てたが、安治も彼らに負けじと、貂の皮の鞘を取り払って得意の槍を振るった。『武家事紀』のは「甚内(安治)、賤ヶ岳七本槍にて年嵩(かさ)なり。その人品もまた高くして、一時の人、みなこれを信用せり」とある。

 

 合戦後、秀吉は安治をも7本槍(本当9本槍だったが)として武功を褒めそやし、感状とともに3千石(山城国下津屋と大井)を与えた。後に、安治は微増を重ね、摂津国能勢郡1万石、大和国高取2万石、淡路・洲本3万石の大名となる。

 

 慶長5年(1600)9月の関ヶ原合戦で、最初は西軍にいた安治は、小早川秀秋の裏切りに乗じて東軍に寝返った。その功で戦後、伊予・大洲城主5万3千石となる。後に禄高はそのまま、信州・飯田に国替えとなり、寛永3年(1626)、73歳までの天寿を生きた。

 

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江宮 隆之えみや たかゆき

1948年生まれ、山梨県出身。中央大学法学部卒業後、山梨日日新聞入社。編制局長・論説委員長などを経て歴史作家として活躍。1989年『経清記』(新人物往来社)で第13回歴史文学賞、1995年『白磁の人』(河出書房新社)で第8回中村星湖文学賞を受賞。著書には『7人の主君を渡り歩いた男藤堂高虎という生き方』(KADOKAWA)、『昭和まで生きた「最後のお殿様」浅野長勲』(パンダ・パブリッシング)など多数ある。

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