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本当は9人だった賤ヶ岳(しずがたけ)の勇士は、なぜ7人にされたのか?

新解釈! 賤ケ岳七本槍列伝〜加藤清正、福島正則から片桐且元まで、秀吉をささえた勇士たちの実像〜 第1回

日本の“ラッキー7”の始まり「賤ケ岳の七本槍」

非武士階級の出身で直属の家臣を抱えていなかった秀吉は、織田家の中での出世にともない自らの家臣団を抱える必要性に迫られた。尾張、美濃、近江など秀吉ゆかりの地で集まられた七本槍のメンバーも、そんな秀吉の即成家臣団の一つであった。イラスト/さとうただし

 戦国時代には「天下分け目の戦い(天下人が決まる戦い)」という合戦がいくつかある。中でも、関ヶ原合戦が太閤秀吉没後の天下分け目の争いであったとすれば、その秀吉が柴田勝家と雌雄を決した賤ヶ岳(滋賀県長浜市)合戦は、織田信長が本能寺で殺された後の、天下分け目の戦いであった。

 

 この戦いで、武功を挙げた秀吉の馬廻衆・小姓衆が「賤ヶ岳の7本槍」と呼ばれた。

 

 天正10年(1582)6月の「本能寺の変」勃発時点での信長家臣団のナンバー1は勝家であり、序列からいえば秀吉ナンバー4もしくはナンバー5というあたりにいた。だが、中国攻めを手際よく収めて帰還し、山崎合戦で明智光秀を破り、敗死させた秀吉は一躍勝家と同等の立場に立った。「草履取り上がりの格下」と秀吉を侮る勝家に対して「勢いは自分にある。今後の主導権は俺が握る」と自信に漲る秀吉の激突は必至の情勢にあった。

 

 この二人の対立に、信長の遺児である二男・信雄(のぶかつ)と三男・信孝の家督争いが絡んだ。信長には10人の男子があり、このうち嫡男・信忠は、本能寺の変の際に二条城で信長同様に敗死している。残された子のうち織田家の後継者として有力な立場にいたのは、ともに25歳になる信雄と信孝であった(二人は母親が異なっていた)。

 

 本能寺の変から25日後の清洲会議では、勝家が信孝を推挙したが、秀吉は直系の三法師(信忠の嫡男・この時点で2歳・後の織田秀信)を推した。結果は、丹羽長秀(にわながひで)、池田輝政(いけだてるまさ)などの幹部家臣が秀吉に同調して、三法師が後継者に決定した。この結果は、秀吉をナンバー1の地位に押し上げることになった。

 

 勝家は、政治的な敗北を軍事的な勝利に変えるために、秀吉との決戦を決意。天正11年(1583)正月に北伊勢に侵攻した秀吉軍3万の隙を衝く形で、2万の兵で越前北ノ庄城を発進した。小競り合いなどがあり、4月には岐阜城にいた信孝が勝家に呼応して挙兵した。様々な戦略的な駆け引きがあり、4月21日、秀吉は茶臼山に入り、さらに賤ヶ岳の東側・木之本に本陣を構えた。

 

 勝家の最前線を指揮する猛将・佐久間盛政(もりまさ)は、大岩山を守る秀吉軍の武将・中川清秀を破るとそのまま大岩山に居座っていたが、秀吉の着陣を知り、引き上げ態勢に入った。そこで秀吉は、盛信(柴田勢)迎撃を命じた。

 

 これが「賤ヶ岳合戦」である。この戦いで、秀吉の眼の前で奮戦して武功を立てた床几(しょうぎ)回り(旗本)が9人いた。福島正則(まさのり)、加藤清正(きよまさ)、片桐且元(かつもと)、加藤嘉明(よしあき)、脇坂安治(わきざかやすはる)、糟屋武則(かすやたけのり)、平野長泰(ながやす)、桜井左吉、石河兵助である。秀吉は後日、彼らの武功に対して一番槍の感状を与え、千石以上を加増した。

 

 この後、北ノ庄城に逃げ戻った勝家を滅ぼした秀吉は「天下取り」に向かって突き進むことになる。その「天下分け目」を勇敢に戦った、という意味で「賤ヶ岳7本槍(しずがたけしちほんやり)」と呼ばれた(9人のうち、石河は戦死し、桜井も間もなく病死したために、9本槍ではなく語呂も良い「7本槍」と呼ばれたという)。日本での「ラッキー7」の始まりでもある。 

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江宮 隆之えみや たかゆき

1948年生まれ、山梨県出身。中央大学法学部卒業後、山梨日日新聞入社。編制局長・論説委員長などを経て歴史作家として活躍。1989年『経清記』(新人物往来社)で第13回歴史文学賞、1995年『白磁の人』(河出書房新社)で第8回中村星湖文学賞を受賞。著書には『7人の主君を渡り歩いた男藤堂高虎という生き方』(KADOKAWA)、『昭和まで生きた「最後のお殿様」浅野長勲』(パンダ・パブリッシング)など多数ある。

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