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映画『HOKUSAI』が迫る人間・北斎 〜自らを”画狂人”と称した天才絵師の真実〜

歴史を楽しむ「映画の時間」第13回 

脳卒中で体が不自由になっても絵を描き続けた天才浮世絵師・北斎の生涯とは?

(C)2020 HOKUSAI MOVIE

 江戸の浮世絵師・葛飾北斎(かつしか・ほくさい)の生涯を描いた橋本一監督作『HOKUSAI』が528日に公開される。

 

 自らを“画狂人”と称し、3万点以上の絵を描いた北斎は、ゴッホを始めとする海外の画家にも影響を与えたが、この映画では彼の人生を4つの章に分けて描出している。

 

蔦屋重三郎や喜多川歌麿、東洲斎写楽との関係を通じて青春から老年期まで描く

(C)2020 HOKUSAI MOVIE

 前半二つの章では柳楽優弥(やぎら・ゆうや)が青年期の北斎を演じ、後半では晩年の北斎を田中泯(たなか・みん)が演じている。

 

 青年期の北斎に影響を与えた人物として阿部寛(あべ・ひろし)扮する浮世絵の版元・蔦屋重三郎(つたや・じゅうざぶろう)や、玉木宏(たまき・ひろし)演じる喜多川歌麿(きたがわ・うたまろ)が登場。

 

北斎が風景画に活路を見出すきっかけとなった人物とは?

(C)2020 HOKUSAI MOVIE

 歌麿の描く女の絵の出来に到底敵わず、こつ然と現れた天才青年絵師・東洲斎写楽(とうしゅうさい・しゃらく)の役者絵の大胆な表現にショックを受けた北斎が、風景画に自分の活路を求めていくまでが第1章。

 

 絵師として人気が出て、愛妻と幸せなひと時を送る第2章には、浮世絵の取り締まりによって没落する蔦屋の様子も描かれる。

 

 老境に入った北斎が脳卒中に襲われ、右手が不自由になりながらも絵を描く情熱を燃やし続ける第3章を経て、親友でもある武士で戯作者の柳亭種彦(りゅうてい・たねひこ)が天保の改革によって、武家社会の中で粛清されていく様を描いた第4章に至るという構成だ。

 

絵を生み出すために苦悩し続けた天才の情熱と苦悩

(C)2020 HOKUSAI MOVIE

 まるで北斎を育てたかのように蔦屋との関係性が密接に描かれている点や、60歳で病死とも自殺したとも言われている柳亭種彦を、若い永山瑛太(ながやま・えいた)に演じさせている点が歴史的な目から見れば気になるが、この作品がポイントにしているのは、恩人や友人が亡くなっても絵筆をとり続ける、北斎の絵に対するひたむきさである。

 

 北斎には米粒に絵を描いたり、寺の境内で120畳大の達磨半身像を描いてみせたりと、人を驚かせるパフォーマーの面や、その生涯に93回も転居する引っ越し魔の面など、ある種の奇人・変人的なエピソードが残っているが、今回はその破天荒な部分はほぼ出てこない。

 

 彼が自分の絵を生み出すための情熱と苦悩に焦点を絞って、努力による天才の人間性を映し出そうとしている。勿論、これはこれである絵師の青春映画としては見応えがあるのだが、葛飾北斎の魅力を捉えきれたかと言われると、やや疑問は残る。

 

過去の映像作品の中から浮かびあがる北斎像とは?

(C)2020 HOKUSAI MOVIE

 これまで北斎は劇映画で2度映像化されてきた。

 

 一つは新藤兼人(しんどう・かねと)監督、緒形拳(おがた・けん)主演の『北斎漫画』(81)で、これは緒形演じる北斎と田中裕子(たなか・ゆうこ)扮する娘のお栄、そして北斎の友人・滝沢馬琴(たきざわ・ばきん)役の西田敏行(にしだ・としゆき)を中心に、幻の女を絵の中に追い求める北斎を映し出したものだ。

 

 気が小さいのに何にでも反発する北斎の豪放な生き方と、地道にライフワークの『南総里見八犬伝』を書き続ける堅物の馬琴を対比させながら、裏テーマとして“性”の問題を扱っているのが新藤監督らしい視点。こちらには米粒の絵や巨大達磨像を描く場面もあって、一般的なイメージの北斎像に近い。

 

 もう1本は原恵一(はら・けいいち)監督のアニメーション『百日紅~Miss HOKUSAI~(15)。杉浦日向子(すぎうら・ひなこ)の漫画を映画化したものだが、こちらは娘のお栄を主人公に、偏屈だが絵師としては一流の壮年期の北斎を、江戸の情緒を盛り込んで描いている。

 

 人生の裏も表も知り尽くした感じの北斎と、絵師では父親譲りの腕を持ちながら男には奥手のお栄との、口は悪いが愛情を感じる親子関係が印象的な作品だ。

 

全体像にどこまでも近づけないのが北斎の魅力の証

(C)2020 HOKUSAI MOVIE

  これら2本の北斎映画からすれば、今回の作品は人間的な北斎の捉え方が生真面目な感じがするのだが、これもまた絵に対してひたむきだった彼の、ある一面を拡大解釈した映画として観れば面白い。

 

 様々な捉え方をしても、その全体像に近づけないところがまた、葛飾北斎という人間の奥が深くて魅力的な部分で、この映画をきっかけにして彼の作品と人生に興味を持つ人が増えてくれればいいと思うのだが。

 

 

【映画情報】

5月28日(金曜日)より全国ロードショー

『HOKUSAI』

『HOKUSAI』 絵で世界は変わるのか?

監督/橋本一

出演/柳楽優弥、田中泯、玉木宏、瀧本美織、津田寛治、青木崇高、永山瑛太、阿部寛

時間/129分 製作年/2020年 製作国/日本 

公式サイト

https://www.hokusai2020.com/index_ja.html

 

 

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金澤 誠かなざわ まこと

1961年生まれ。映画ライター。『キネマ旬報』などに執筆。これまで取材した映画人は、黒澤明や高倉健など8000人を超える。主な著書に『誰かが行かねば、道はできない』(木村大作と共著)、『映画道楽』、『新・映画道楽~ちょい町エレジー』(鈴木敏夫と共著)などがある。現在『キネマ旬報』誌上で、録音技師・紅谷愃一の映画人生をたどる『神の耳を持つ男』を連載中。

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