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機械的信頼性が高かったM3/M5スチュワート軽戦車(アメリカ)

第2次大戦:軽戦車列伝 第2回 ~結果として誕生した軽量級戦車の明と暗~

故障知らずの“ハニー”は日本軍の「助っ人」としても活躍

ビルマ戦線においてアメリカから供与されたM3A3を使用する中国軍戦車部隊。M3シリーズはレンドリースにより連合国各国に多数供与されている

 モータリゼーションとマスプロ発祥の国であるアメリカは、1930年代に入ると戦車の開発を急速に推進した。当時、戦車という兵器は重量があり、エンジンや足回りがその重量についていけず故障が多い傾向が見られたが、アメリカ陸軍はそのようなケアレスな故障の排除、すなわち機械的信頼性の向上を重視した戦車開発を行ったのだ。

 

 かくして誕生したM2シリーズは、37mm砲を搭載しており当時の軽戦車としてはかなり強力なうえ、機械的信頼性も高く故障が少なかった。そこで、このM2シリーズをベースとして、さらにソフィティケートされた軽戦車が開発されることになった。M3シリーズがそれである。

 

 M2シリーズのものに改良を加えた足回りを備え、装甲厚も強化されて防御力が向上。また、エンジンもガソリン・エンジンだけでなくディーゼル・エンジンのモデルも開発され、エンジン不足による生産遅延を避ける工夫がなされた。

 

 こうして誕生したM3軽戦車は、アメリカの参戦以前にイギリスに無償供与のレンドリース兵器として送られ、北アフリカ戦役で実戦に投入された。それに際して、兵器に愛称を付けてそれを制式呼称とする習慣のあるイギリスは、M3に南北戦争時代のアメリカの南軍の将軍であるスチュワートの名を冠し、それが逆輸入されてアメリカでもこの愛称で呼ばれるようになった。

 

 もっとも、北アフリカの最前線で戦っていたイギリス軍戦車兵たちは、M3/M5シリーズをスチュワートとは別にハニー(「カワイ子ちゃん」の意)の俗称で呼んでいた。その理由は、一説では機械的信頼性が高く故障知らずで元気に動き回るが、ドイツ戦車にはかなわない点が、まさにミツバチともお転婆娘とも似ているからだと伝えられる。

 

 このM3シリーズのエンジンを変更し、さらに戦訓に基づく改良を各部に加えたのがM5シリーズだが、実質的に改良発展型であるため、どちらも同じスチュワートの愛称で呼ばれた。

 

 M3/M5シリーズは、強力なドイツ戦車との戦いでは苦戦を強いられ、のちには偵察ぐらいにしか使えなくなってしまった。

 

 しかし、太平洋戦争の緒戦で日本軍と戦ったM3シリーズは日本戦車を相手に善戦。一方、日本軍は本車を強力な敵と認識し警戒していた。そして、故障知らずのアメリカの技術で造られた本車は、鹵獲(ろかく)されると日本軍戦車部隊に組み込まれ、強力な「助っ人」として重宝されている。

 

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白石 光しらいし ひかる

1969年、東京都生まれ。戦車、航空機、艦船などの兵器をはじめ、戦術、作戦に関する造詣も深い。主な著書に『図解マスター・戦車』(学研パブリック)、『真珠湾奇襲1941.12.8』(大日本絵画)など。

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