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ゼウス以上の好色神アポロンは「両刀使い」 美少女につきまとった結果下された「罰」とは?

ギリシア神話の世界


 

■若く美しければ性別を問わず愛する好色家

 

 好色極まりない最高神ゼウスの子には、知恵と戦いの女神アテナや狩猟と弓術の女神アルテミスのような貞操観念の強固な処女神がいた反面、予言と音楽・医術の神アポロンのように、若くて美しければ男女を問わない両刀使いもいた。

 

 太陽神とも言われるだけあって、人間の姿で現われる時のアポロンは、外見上非の打ち所がないイケメン。だが、性格には難があり、あるとき、幼児の姿をした愛の神エロスを小ばかにしたところ、思いもかけない復讐をされた。エロスは常に弓矢を携帯しており、その矢に射られた者は愛憎の感情を操られ、神といえどもそれに抗うことはできなかった。

 

 エロスは2本の矢をつがえ、1本はアポロン、もう1本は純情無垢な美少女ダプネに向かって放った。ダプネはテッサリアの大地を流れる川の神ペネイオスの娘。彼女に放たれた矢には、貞操観念をさらに強め、どれほどのイケメンであろうが関係なく、とことん男性を拒絶する効果が込められていた。一方、アポロンに放たれた矢にはダプネのことが恋しくて堪らなくなる効果が込められていた。

 

 ただでさえ好色なアポロンに具体的な標的が示されたのだから、積極的なアプローチに出るのはもちろん、拒まれた場合は強引な手段に出るのは間違いなかった。

 

 対するダプネはその美貌と健康的な姿態が遠くにまで聞こえ、求婚の申し出が殺到していたが、生涯独身と処女を貫く覚悟を固めていた彼女はことごとく縁談を断っていた。そこへエロスの矢により、男性嫌悪の情が増幅されたのだから、アポロンのアプローチが成功するはずなどなかった。

 

 比類なきイケメンであったことから、ダプネも思わず目を奪われたが、すぐさま脳裏に警戒信号と危険信号が鳴り響き、アポロンの甘い囁きに心奪われることなく、脱兎のごとく逃げ出しにかかった。

 

 普段は小動物を追いつつ楽しげに散策する野山を駆け抜け、その静けさを愛する森の中も呼吸を荒げながら走り続ける。このままでは体力が尽き、アポロンに追いつかれる。絶望に打ちひしがれそうになった彼女の眼前に、父ペネイオスが守護する川の流れが現れた。彼女は必死の思いを込めて父に助けを求めた。

 

 ペネイオスの力ではまともに戦ってアポロンを退けることはできない。となると、娘を救う方法はただ一つ。ペネイオスは躊躇うことなくその策を実行に移した。ダプネの姿を一本の樹木に変えてしまったのである。

 

 もとが絶世の美少女だけに、その樹木もこの世のものとは思えない美しさ。アポロンにできることは、もはやその樹木を自身の聖樹とすることしかなかった。この樹木こそ現在の月桂樹で、この神話に基づき、古代ギリシア語では月桂樹にダフネという名が与えられていた。

 冒頭でも触れたように、アポロンは両刀使いの好き者。男の子のなかでも最も深く愛したのはヒュアキントスという美少年だった。ヒュアキントスに恋する神はアポロンだけでなく、西風の神セビュロスもひどく入れ込んでいた。そのためアポロンに対する嫉妬心を抑え切れず、ついには「自分のものにできないなら、いっそ」という恐ろしい心境に至ってしまう。アポロンとヒュアキントスが円盤投げに興じているとき、セビュロスは風を操り、ヒュアキントスの額に円盤を直撃させた。

 

 おびただしい血が流れ出てヒュアキントスは絶命。以来、その血を吸収した大地から美しい花が咲くようになり、美少年の名に因んでヒヤシンスと名づけられたという。

イメージ/イラストAC

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島崎 晋しまざき すすむ

1963年東京生まれ。立教大学文学部史学科卒業。旅行代理店勤務、歴史雑誌の編集を経て、現在、歴史作家として幅広く活躍中。主な著書に『歴史を操った魔性の女たち』(廣済堂出版)、『眠れなくなるほど面白い 図解 孫子の兵法』(日本文芸社)、『仕事に効く! 繰り返す世界史』(総合法令出版)、『ざんねんな日本史』(小学館新書)、『覇権の歴史を見れば、世界がわかる』(ウェッジ)など多数。

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