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全知全能の神・ゼウスには一体何人の妻がいたのか? ゼウス最大の修羅場はいつ?

ギリシア神話の世界


 

■ゼウスの復讐のために生まれた「初の人間の女性」

 

 ゼウスは雷神にしてギリシア神話の最高神でもあるが、性格は褒められたものではなく、とびきりの好色漢だった。相手は女神である必要もなく、美女であればニンフ(妖精)でも人間でも、さらには人妻であっても見境なしだったが、後妻のヘラが非常に嫉妬深い性格であったため、ゼウスの浮気が発覚するたびにトラブルが絶えなかった。ゼウスに罰を下すことはできないから、ヘラからひどい目に遭わされるのは女の側と決まっていた。

 

 女神とニンフと人間の女性をあわせ、ゼウスがいったいどれだけの女性と関係をもったか、正確なところはわからない。不死の身で、性欲も衰えを知らないのであれば、それこそ天文学的数字になるのかもしれない。

 

 ただし、名前が残っている女性であれば二桁に留まる。太陽神アポロンと月の女神アルテミスを生んだレト、ヨーロッパという地名の語源となったイオ、半神の英雄ヘラクレスを生んだアルクメネについては別の機会に触れる予定なので、ここではそれ以外から最も酷い目に遭わされた女性を取り上げよう。

 

 アルゴスの王女ダナエやスパルタの王妃レダ、テュロスの王女エウロペなどはみなゼウスに孕ませられはしたが、幸いにしてヘラによる報復を免れている。そうなると、一番の酷い目に遭わされたのはテーバイの王女セメレかもしれない。

 

 ゼウスとセメレの浮気はヘラの知るところとなった。セメレが妊娠していることも。そこでヘラは乳母に変身してセメレに近づいた。

 

 セメレは男から、自分は最高神のゼウスと告白されていたが、ヘラはその点を突くことにした。「お嬢様が逢瀬を重ねている相手は神の名を語る偽者かもしれません。本当に神かどうかご確認なさっては」

 

 翌日のこと、ゼウスがやってくると、セメレはある頼み事をした。どんな願いでもかなえてくれないかと。ゼウスが承諾すると、セメレは乳母に化けたヘラから入れ知恵されたまま、「ヘラ様を訪れる時と同じ姿を見せてください」と頼み込んだ。

 

 これを聞いたゼウスは咄嗟にヘラの暗躍を察したが、一度交わした約束を違えるわけにもいかないので、稲妻と雷鳴に包まれた本来の姿を現した。生身の身体の人間が間近にそれを見て無事でいられるはずがなく、セメレはたちまち焼け死んでしまった。

 

 セメレのお腹に宿った胎児は無事だっため、セメレ姉妹のイノによって育てられるが、ヘラの報復はイノにも及び、ヘラによって発狂させられたイノ夫妻は実子2人をその手で殺めることに。ゼウスの好色さも呆れるレベルだが、ヘラの嫉妬深さもそれに負けてはいない。つくづく規格外の夫婦神である。

イメージ/イラストAC

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島崎 晋しまざき すすむ

1963年東京生まれ。立教大学文学部史学科卒業。旅行代理店勤務、歴史雑誌の編集を経て、現在、歴史作家として幅広く活躍中。主な著書に『歴史を操った魔性の女たち』(廣済堂出版)、『眠れなくなるほど面白い 図解 孫子の兵法』(日本文芸社)、『仕事に効く! 繰り返す世界史』(総合法令出版)、『ざんねんな日本史』(小学館新書)、『覇権の歴史を見れば、世界がわかる』(ウェッジ)など多数。

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