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「男をダメにする色香と詐術」を教え込まれたパンドラの手練手管 「人類最初の女性」がもたらした災いとは

ギリシア神話の世界


 

■ゼウスの復讐のために生まれた「初の人間の女性」

 

 プロメテウスに一杯食わされたゼウスは、プロメテウスに永遠の苦痛を味あわせるだけでは飽き足らず、人間全体に災いをもたらそうと企んだ。

 

 ゼウスはまず火と鍛冶の神ヘパイストスに命じ、女神によく似せた美しい乙女を創造させた。人間の女性の誕生である。

 

 次に知恵と戦いの女神アテナに命じ、機織りの技術を与えるとともに美しく装わせ、その次には愛と美の女神アプロディテに命じ、男の心を虜にするあらゆる手練手管を教え込ませた。次に泥棒の神にして伝令神のヘルメスに命じ、邪心や狡賢さを教え込ませると、ゼウスはこの乙女にパンドラという名を与えたが、それは古代ギリシア語で「あらゆる贈り物を与えられた女」を意味していた。

 

 出来栄えに満足したゼウスは、オリュンポスの神それぞれに災いの種を差し出させ、一つの壺の中にしまい込むと、ヘルメスに命じて、パンドラとその壺をプロメテウスの弟エピメテウスのもとに届けさせた。

 

 古代ギリシア語では、プロメテウスが「思慮深い者」を意味するのに対し、エピメテウスは「あとでしか考えない者」を意味していた。その名に違わず、プロメテウスはゼウスが何かよからぬ企みをするに違いないと考え、「ゼウスからの贈り物を絶対に受け取ってはならない、送り返せ」と、エピメテウスに厳しく言い聞かせていたが、エピメテウスはパンドラの美しさと魂を蕩かすような微笑みに心奪われるあまり、兄の忠告をすっかり忘れ、彼女を喜んで迎え入れてしまった。

 

 エピメテウスは女を見るのも初めてなら、その存在すら知らずにいた。男女の営みについても知るはずがなく、そこは徹底的に仕込まれたパンドラがすべてリードして、連日連夜、エピメテウスを天にも昇る気分に誘ったはずである。

 

 エピメテウスが色欲に溺れることはあっても、人間界には何事もないまま、しばらくは平穏な日々が続いた。そんなある日、パンドラが壺の存在を思い出した。開けるなと言われると、よけい開けたくなるもので、少しなら問題なかろうと、彼女は蓋を開けてしまった。

 

 すると中からもやもやと怪しいものがたくさん立ち上り、凝視して確認する間もなく、四方に散らばっていってしまった。ゼウスの仕掛けた入念な罠だったのである。あらゆる災いの種が人間界に四散したことで、以来、人間はそれまで無縁だった悪疫や猛獣、毒虫、自然災害などに四六時中悩まされることとなった。

 

 けれども、種の中に一つだけ優柔不断なものがいて、まだ壺の中に留まっていた。それは「希望」で、パンドラが慌てて蓋を閉めたことから、人間は希望だけは捨てずに生きていくことができた。これだけはゼウスにとって計算外のことであった。

イメージ/イラストAC

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過去記事

島崎 晋しまざき すすむ

1963年東京生まれ。立教大学文学部史学科卒業。旅行代理店勤務、歴史雑誌の編集を経て、現在、歴史作家として幅広く活躍中。主な著書に『歴史を操った魔性の女たち』(廣済堂出版)、『眠れなくなるほど面白い 図解 孫子の兵法』(日本文芸社)、『仕事に効く! 繰り返す世界史』(総合法令出版)、『ざんねんな日本史』(小学館新書)、『覇権の歴史を見れば、世界がわかる』(ウェッジ)など多数。

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