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牝牛に変えられた美少女・イオの悲劇 3つの大陸を渡る果てしない逃走劇とは?

ギリシア神話の世界


 

■正妻・ヘラの執念から逃げ続けたイオ

 

 ゼウスの好色とヘラの嫉妬。ヘラによる厳しい監視の目を気にしながら、ゼウスは四六時中、好みの美少女探しに余念がなかった。

 

 相手は神でもニンフ(妖精)でも人間でもよし。ある日のこと、「灯台下暗し」の発想からか、ゼウスはよりにもよってヘラの身辺に仕える女性陣に目を向けた。すると、いるではないか。自分の好みにピタリ当てはまる美少女が。その少女の名はイオ。ヘラを祀る神殿に仕える巫女だった。

 

 一度狙いを定めたら、ゼウスの行動は速い。だが、ヘラの反応も負けてはいない。ゼウスがいそいそと出かけたと知ってすぐさま追いかけ、ゼウスがイオを口説き落とし、今にも事に及ぼうとしているところへ姿を現わした。

 

 ヘラの気配を察したゼウスは素早くイオの姿を純白の牝牛に変え、何とかその場をやり過ごそうとするが、ヘラはそんな小細工の通用する相手ではない。ヘラはゼウスからその牝牛をもらい受け、百眼巨人のアルゴスに監視をさせた。全身に100もの目を持つため、一日中どれかは目覚めており、監視役としてはこれ以上にない適任者だった。

 

 だが、ゼウスもこれくらいであきらめるタマではなく、息子のヘルメスにイオの救出を託した。ヘルメスは神々の伝令役であるとともに、商人、旅人、盗人の神でもあり、あらゆる盗みの手段に通じている。

 

 百眼巨人から盗みを働くには、100の目すべてを同時に眠らせればよい。そう考えたヘルメスは眠りを誘う葦笛を奏でた。アルゴスが完全に眠りについたのを確認して、その首を斬り落とす。何も殺さなくても思いたくなるが、ともあれヘルメスはイオをアルゴスの監視から救出することに成功した。

 

 けれども、ヘラによるイジメは終わらず、まだ牝牛の姿でいるイオに昆虫のアブを差し向け、チクチクといたぶらせた。イオは何とかアブから逃れようと猛然と走り出し、バルカン半島を南から北へ、北から東へ駆け巡り、海をも越え、ヨーロッパとアジアを隔てる海峡をも渡り、ついには黒海の東に聳えるスキュティアの山々までやってきた。

 

 そこには鎖でつながれたプロメテウスがおり、イオに同情したプロメテウスは、苦しみはまだ続くが、その先に救いが待っていることを予言してくれた。

 

 その後もイオは半狂乱状態で逃げ回るが、エジプトに着いたところで再びヘルメスが現われ、アブを追い払ったうえ、彼女を元の姿に戻してくれた。彼女はこの地でゼウスの子を生み、のちに成長したその子がエジプト王として君臨する。

 

 以上の神話は後世、地名の起源と結びつけられ、イオニア海はイオが越えたこと、ヨーロッパとアジアを隔てるボスポラス海峡は、「牝牛の渡り」を意味する古代ギリシア語に由来すると説明されるようになった。

イオニア海/写真AC

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島崎 晋しまざき すすむ

1963年東京生まれ。立教大学文学部史学科卒業。旅行代理店勤務、歴史雑誌の編集を経て、現在、歴史作家として幅広く活躍中。主な著書に『歴史を操った魔性の女たち』(廣済堂出版)、『眠れなくなるほど面白い 図解 孫子の兵法』(日本文芸社)、『仕事に効く! 繰り返す世界史』(総合法令出版)、『ざんねんな日本史』(小学館新書)、『覇権の歴史を見れば、世界がわかる』(ウェッジ)など多数。

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