朝ドラ『あんぱん』仕事がなくて寝てばかりのぐうたらな生活 プライドが高くて「忙しいふり」をしていた!?
朝ドラ『あんぱん』外伝no.64
NHK朝の連続テレビ小説『あんぱん』は、第20週「見上げてごらん夜の星を」が放送中。嵩(演:北村匠海)は退職して漫画家としてのスタートをきるが、仕事はあまりない状態が続いていた。その上、それを素直にのぶ(演:今田美桜)に言えずにいる。一方、のぶも薪 鉄子(演:戸田 恵子)の秘書をクビになった。夫妻の今後はいかに……?という展開だ。実際、史実でもやなせたかし氏は三越百貨店を退職した後、しばらく時間を持て余していたようである。
■退職したものの仕事はあまりなく……
昭和28年(1953)、やなせたかし氏は約6年務めた三越百貨店を退職し、漫画家を本業として新たなスタートをきった。この時34歳である。
老舗百貨店の安定した収入を失うことに不安がなかったわけではないが、副業の収入もぼちぼちあり、漫画は度々入賞して同じように漫画を投稿する漫画家仲間とも知り合えた。当時漫画家同士が団体をつくるケースがよくあったが、やなせ氏は小島功氏を中心とする「独立漫画派」に所属していた。
「独立漫画派」は銀座に事務所を構え、機関誌「新漫画」を発刊するなど、若い漫画家らが集まって精力的に活動をしていたという。やなせ氏自身も、三越百貨店在職中は仕事帰りに事務所に立ち寄って、漫画家として仕事の相談をしたり、居合わせた仲間たちと銀座の街に遊びにいったりしていたようである。
妻・暢さんと暮らしていたのはあまりにも古くて共同トイレの天井に穴があいているような“おばけアパート”だったので、2人でせっせと貯金。暢さん自身が働いていたこともあるし、やなせ氏には三越百貨店社員としての平均以上の収入と、漫画家の“セミプロ”としての収入があった。そのため、他の若手漫画家に比べると羽振りは良かったと述懐している。
数年かけて貯めたお金で、夫妻は東京・四谷に二階建てのマイホームを購入。そこには小さいながらもやなせ氏の仕事場としてのスペースも設けられた。さらに電話も引き、着々と準備を進めたという。それらが済んだ頃、満を持して三越百貨店を退職したというわけだ。
いよいよ漫画家として本格的に活動し始めたものの、当然まだ無名の漫画家にすぐに仕事がくるわけではなかった。あまりにすることがなく、やなせ氏は著書で「毎日なんにもすることがないのにはおどろいた」と当時の心境を綴っている。もちろん、独立漫画派の一員として仕事が回ってきたり、それまでのツテで仕事をこなしたりすることもあったというが、基本的には暇を持て余していたようだ。
暢さんが働きに出ている日中、縁側でひなたぼっこをしたり、ぐうたら寝転んでいたり……。そんな毎日だったという。ずっと家にいるのも……という時は、犬と近所を散歩をしたり、映画を観に行ったりしていたそうだ。
そういう状況ではあったものの、プライドの高さが邪魔をして一度も売り込みをしなかったと振り返っている。そしてドラマでも描かれたように、小さな黒板にスケジュールを書き込んで「忙しさ」を演出していたというのだ。ここからやなせ氏は漫画に留まらない多彩な才能を発揮していくわけだが、ドラマではどのように描かれていくのだろうか。

イメージ/イラストAC
<参考>
■やなせたかし『アンパンマンの遺書』(岩波現代文庫)
■やなせたかし『人生なんて夢だけど』(フレーベル館)