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朝ドラ『あんぱん』友人宅のこども部屋で新婚生活スタート!? 引っ越し先は焼け残りの“おばけアパート”

朝ドラ『あんぱん』外伝no.62


NHK朝の連続テレビ小説『あんぱん』は、第18週「ふたりしてあるく 今がしあわせ」が放送された。ようやく結ばれて晴れて夫婦になった嵩(演:北村匠海)とのぶ(演:今田美桜)。2人の新居には高知から家族が駆けつけ、登美子(演:松嶋菜々子)も加わって祝宴となった。さて、史実では上京したやなせたかし氏と暢さんが新婚生活をスタートさせたのは、暢さんが下宿していた友人宅だったという。今回はそんな2人のエピソードをご紹介する。


■戦後の東京で仕事を探すもなかなかうまくいかず…

 

 昭和22年(1947)、やなせたかしさん(本名:柳瀬 嵩さん)は28歳の時に勤めていた高知新聞社を退職し、再び上京した。東京には、半年ほど前に知人の代議士の秘書になるべく上京した恋人・小松暢さんが待っていた。

 

 東京はかつて旧制専門学校・東京高等工芸学校の図案科(現在の千葉大学工学部)で学び、銀座で最先端のトレンドに触れ、卒業後には製薬会社の宣伝部で絵やデザインの才能を発揮していた場所である。

 

 しかし、戦後の東京はその頃とはすっかり様変わりしていた。嵩さんは出征前に勤めていた会社への復職を検討したが、断られてしまう。仕方なく当時の同僚がやっていた新橋の小さな図案会社(現在でいうデザイン会社)で職を得た。

 

 一方、家はどうしたかというと、暢さんの下宿先に転がり込んだという。暢さんは建築業を営む友人夫妻の家に下宿していたのである。場所は現在の神奈川県横浜市港北区で、かなりの好立地。しかも庭も風呂も完備された立派な豪邸だったという。家賃は無料で、その代わり夫妻の子2人のうち3歳になる息子の面倒をみていた。

 

 暢さんに与えられていた部屋はその男の子の部屋で、そこに嵩さんが加わる形でちょっと変わった新婚生活をスタートさせた。

 

 暢さんは代議士の秘書としての仕事を終えて帰宅すると、嵩さんと一緒に男の子の入浴やトイレなどのお世話をし、寝かしつける。2人のベッドはその子のすぐ隣に並んでいたそうで、男の子が寝入ってやっと夫婦の時間がもてるようになるというわけだ。

 

 近くに小さなテーブルを置いて、そこで並んで食事をし、嵩さんは絵を描いた。また、休日になると風呂のための薪割りをするのだが、軍隊で鍛えられた嵩さんは肉体労働もなんのそのといった感じでスパンスパンと割っていったらしい。何かと気を遣う暮らしだっただろうが、著書からはそれをも暢さんと一緒に楽しんでいたことがわかる。

 

 とはいえ、夫婦2人きりになりづらいこの家での暮らしを長く続けるつもりはなく、2人はせっせと貯金に励んだ。引っ越しを考え出したのは、嵩さんが三越百貨店に転職してからのことである。紹介された物件は、東京・中目黒のアパートだった。六畳一間に加えて押し入れとキッチンという間取りで、風呂はなくトイレも共同。ドラマで描かれた通り、トイレの屋根には穴が開いていたという。そのオンボロさから嵩さんは「おばけアパート」と評している。

 

 しかし近くに銭湯や八百屋などが充実しており、住んでみれば意外と便利だったようだ。嵩さんは著書で「2人で風呂に行って、隣の八百屋で柿を買って齧りながらアパートに帰るのが良かった」と述懐している。決して裕福ではないものの、そこには2人だけの小さな幸せがあった。

イメージ/イラストAC

<参考>

■やなせたかし『アンパンマンの遺書』(岩波現代文庫)

■やなせたかし『人生なんて夢だけど』(フレーベル館)

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歴史人編集部れきしじんへんしゅうぶ

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